第34話 夜会来たる

 国王主催の夜会は、3年に一度。

 それは貴族達にとっての祝祭であるが、同時にその者の立ち居振る舞い次第で、未来が塗り替えられる処刑場にもなり得るのだ。


 王宮は、光に満ちていた。


 天井から吊るされた無数の灯りが、夜空の星のように瞬き、夜会の空気を作り出している。そこに集うのは、この国の“選ばれた者”達だ。


 家柄だけでなく最近名を上げた者や、功績で呼び上げられた新顔。そして何も知らぬまま値踏みされる者。選ばれる基準はその年毎に違う。つまり国王陛下の気まぐれだ。




 ――重苦しい扉が開き、また1人、選ばれた者がこの場に加わる。それが相応しい者なのか否か、貴族たちは楽しそうに、扉へ向けて目を細めた。


 現れたのは、黒と深紅を纏った令嬢。その隣で手を引いているのは、同じく黒い礼服に深紅を忍ばせた、ルーカス・アッシュフォードだった。


 黒を主張する服装は、華やかな――ましてや格式の高い場では、好ましいものではない。だが、光を受けて夜空に溶け込むその姿は、2人の登場を演出するのに相応しいものだった。


「……誰だ、あの美しい令嬢は」

「隣にいらっしゃるのは、アシュフォード伯爵家のルーカス様ですわ」

「となると……あの令嬢が、婚約者のヴァルディス男爵令嬢か? 以前見かけた事はあるが、随分と印象が違うな」

「まあ……ルーカス様が、婚約者様を自らエスコートなさるなんて。

 私、初めて拝見しましたわ」



 囁きが、波紋のように広がっている。


 ルーカスがあたしの髪飾りに触れ、角度を調節した。

 馬車の中でうたた寝していたせいで、ずれていたのだろうか。


「ミリア嬢はいつも通りにしていてください。今宵は、私が傍にいますから」


 ルーカスの柔らかな笑みに、近くにいた令嬢が小さく悲鳴を上げた。

 顔を赤らめている貴族達を一瞥していると、やけに主張の激しい壇上が目に入った。金ピカの椅子にこの国の国王と王妃らしき人物が並んで座っている。


 ほほう。

 あれがこの国の王か……強そうだな。


「ミリア嬢。いつも通りとは言いましたが、国王陛下の前では大人しくしていてくださいね」


「……分かってる」


 ルーカスが釘を刺してきた。

 流石に国王に殴り掛かったりしないぞ。横に立ってる鎧を着た門番みたいな奴等にもな。



 それにしても……今日は、ルーカスが目を見て話してくる。昨日はまともに会話もできなかったから、どうなる事かと思っていたが。ただ、髪飾りがずれていないか、足に負担がかかっていないかと、時折確認するような目線があたしの周りを彷徨っている。


 気遣いはありがたいが……正直、少し落ち着かない。

 今は前を見ていてほしいものだ。


 ルーカスに歩幅を合わせながら、周囲を軽く見渡す。

 派手なドレス、煌びやかな礼装。

 己を着飾った貴族連中。


 誰が味方で、誰が敵か。

 誰が獲物で、誰が狩る側か……。

 見ているだけで飽きそうにない。


 あたしの口角が、自然と上がった。その変化に、ルーカスはまだ気づいていないようだった。

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