If …もしもあなたならどちらを選ぶ?─自壊編
楓
第1話 無意識
彼女は優しい人だった。
誰にでも手を差し伸べ、周りから厚い信頼を得ていた。
外から見れば、何一つ欠けていない、
完璧に近い日常。
ただ、彼女は、違和感と共に生きていた。
楽しくもない。
幸せでもない。
胸の奥が、なぜか常に重く、
悲しい。
その一方で
「新しい価値観を見つけたい」
「挑戦して、何かに没頭したい」
「生きていて、心から楽しいと感じたい」
彼女は希望を抱いた。
だが、そのたびに“何か”が囁く。
「絶対にだめ。それをすることは、
本当にだめ。」
悲しい記憶が次々と甦る。
失敗の記憶。
怒られた記憶。
恥ずかしかった記憶。
彼女の胸は、再び締めつけられる。
怖かった。
自分の中にいる“それ”が、
制御できなくなっていくのを感じた。
けれど、彼女は耳を傾けた。
それもまた、自分の大切な一部なのだから。
そして、“無意識”はやさしく囁いた。
「今のままでも、
上手くやりすごせている。
別に困ってはいないでしょ。
家族もいる。
友達も恋人もいる。
健康な身体もある。
ちゃんと仕事もしているし、
お金もある。
あなたは、それで充分魅力的だよ。」
その言葉に、胸の奥で何かが小さくなっていった。
言葉は続く。
「世の中には食べられない子もいる。
暴力にさらされる子もいる。
だから、人と比べること自体が、
間違いなんだ。」
彼女は、その声を信じた。
「これが、幸せなのだ」と。
よし、自分を磨こう。
たくさん本を読もう。
今より、誰からも好かれる
優しい子になろう。
感謝して、笑顔でいよう。
今ある幸せを、噛みしめよう。
無意識が、優しく囁く。
「そう、それでいいの。
あなたはとても優しい」
彼女は、ほっと微笑み、無意識に語りかける。
「やっぱりあなたが正しかった。
いつも私の味方でいてくれてありがとう。
笑顔にした方がいいとき、
教えてくれてありがとう。
私を幸せに導いてくれてありがとう。」
彼女は感謝を続ける。
何度も、何度も、心の中で繰り返しながら。
そのたびに、無意識の声は静かに強くなる。
優しさの中に、微かに鉄のような冷たさを帯びて
彼女は微笑みながら、静かに涙を流した。幸せの涙を。
──けれど、その涙はもう、自分の意志ではなかった。
やがて思考は彼女を責め立てる刃に変わっていった
だが彼女は、
無意識のオーロラの光に包まれていた。
そうして、彼女は静かに崩れていった。
考えずにいることが、幸福と信じながら。
─永遠の拘束予測
できない悲しみと苦しみが、
繰り返し彼女を襲う。
彼女は、無意識の奴隷でいることを
知らずに生きていく。
あとがき
防御反応は、ときに私たちを守ります。
けれど同時に、変化の芽を静かに摘んでしまうこともあります。
「自分は不幸ではない」
そう言い聞かせ続けた先に、
何が残るのか。
この物語が、
誰かの中にある小さな違和感に、
そっと触れていたら幸いです。
If …もしもあなたならどちらを選ぶ?─自壊編 楓 @kaede4444
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