第十二話 秘密は、そんなに上手じゃない

「なあ、悠斗」

 昼休み。

 パンをかじっていた僕に、健太が肘をぶつけてきた。

「最近さ」

 嫌な予感がする。

「雰囲気、変わったよな」

「……そう?」

「うん。顔」

 じっと見られる。

「余裕ある顔してる」

 吹きそうになった。

「気のせいだろ」

「いやいや」

 健太はにやっと笑う。

「この前さ、高校の文化祭、行ったって言ってたよな」

「行ったけど」

「一人で?」

 一瞬、言葉に詰まる。

「……知り合いと」

「へー」

 その“へー”が、一番怖い。

「で、その知り合いって」

 身を乗り出してくる。

「もしかして、例の先輩?」

「……」

 否定しきれなかった。

「マジか」

 健太は目を丸くして、それから声を潜める。

「やば。

 それ、付き合って――」

「違う」

 思ったより、強い声が出た。

「……違うから」

 健太は一瞬驚いたけど、

 すぐに真剣な顔になった。

「そっか」

 一拍置いて。

「でもさ」

 ぽつりと続ける。

「好きなのは、見てて分かる」

 胸が、どくっと鳴る。

「気をつけろよ」

 からかうでもなく。

「お前、顔に出すタイプだから」

 ***

 放課後。

 いつもの待ち合わせ場所に、真白先輩はいた。

「おつかれ」

「……先輩」

「どうしたの?」

 すぐ、気づく。

「友達に、ちょっと」

 言葉を選びながら、話す。

「気づかれそうになりました」

 真白先輩は、少しだけ目を伏せた。

「そっか」

「……嫌でした?」

 沈黙。

「正直に言うね」

 先輩は、静かに言った。

「ちょっと怖い」

 でも、続ける。

「でも、それ以上に」

 僕を見る。

「隠す気も、ない」

 胸が、熱くなる。

「今は」

 一歩、近づく。

「大っぴらにはできないけど」

 小さく笑う。

「悠斗の気持ちまで、

 なかったことにするつもりはない」

「……はい」

「だから」

 少しだけ、声を落として。

「誰かにバレても、

 逃げないで」

 その言葉が、重くて、嬉しい。

「逃げません」

 即答だった。

「俺、先輩のこと――」

 言いかけて、

 先輩がそっと指を立てる。

「それは」

 優しく制する。

「ちゃんと、言えるタイミングで」

 ずるい。

 でも、守ってくれてるのが分かる。

 帰り道。

 肩が触れそうな距離で歩きながら、思った。

 秘密は、そんなに上手じゃない。

 でも。

 隠してるからこそ、

 大事にしてるって、ちゃんと伝わってほしい。

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