「(a+5) - 2」 夏の香り
通路
白い通路
どこまでも続く白き通路を歩いている。
どこまで続いているか分からないが
一歩一歩先へと進んでいく。
人影は見えない。
...そういえばここに来て
一度も他者を見ていない。
A.Yは
ここはあまり機能していないと言っていた。
そして、その理由は見ていれば分かると。
私が今こうして歩いて感じたことも
その理由の一つなのだろうか?
(先に進もう。
今は、13番を消すことを考えなくては。)
...
下層への入り口が見えた。
今私がいるのは第二層。
下層は精神侵食や致死性のある
情報が保管されていると言っていた。
私がしようとしていることは自殺行為だということは考えなくても分かる。
だが、今ここでやらなくては人類の運命は覆すことは出来ないだろう。
下層へと下りる。
私は再び死へと向かい始める。
不思議と恐怖を感じることはない。
(安定性が上がったからだろうか?)
とそんなことを考えながら進む。
...
第三層の入り口へと着いた。
入口には、植物の根があった。
...根があった。
根は私にまだ気づいていないようで、
じりじりと通路全体を侵食している。
(あれの力は、魅了と五つの形態変化。
一つ一つの形態が
人類文明を消し去ることが出来る。
だが、あれの性格上、
玩具を消し去るとは思えない。
だから、現在のあれは、夏...か。)
夏の力は
急激な成長と魅了。
(あれを視認した場合、魅了が発生する...
とは聞いていたが、
まさか、意識を持ったままの身体支配か。)
ヒノの体は、無意識的に根の方へ向かう。
このまま抵抗しなければ、
数分で根のところへ到達するだろう。
(...抵抗する方法は知らない。)
ヒノは抵抗することなく
根へと歩みを進める。
(私は情報を使う技術が苦手らしい。
愚者の箱庭で見た情報を
利用する理論を見たが...)
(内容が難しく、
あまり理解することが出来なかった。
だが、今の私なら出来るのだろうか?)
その答えを知る前に
ヒノの体は根へと到達した。
根はヒノに気付いたようで
成長の勢いを増す。
私は手を広げる。
痛みが脳へと伝達される。
血が大量に外へ出る。
ヒノは本能的に外傷部位を見る。
服に血が滲んでいた。
根が私の腹を突き刺していた。
(...)
痛いという言葉が出てこないほどに
私の思考は痛みに支配される。
血が外に出ている感じがする。
...!?
私は気づいた。
気付いてしまった。
私は今この根に食べられていることに。
根は私の腹部を貫き成長を止めていた。
だが、これは何もしていない訳ではなかった。
「私の...血を...吸っている...な?」
どうにか口を動かし、言う。
大きく成長していた根によって腹部の損傷は、
下半身と上半身が脇腹にある筋肉だけで
何とか繋がっている...
(魅了から脱出した...が、これでは...)
ヒノは再生が行われていないことに安堵する。
再生...?
その違和感を追及しようとしたその時
肉体の限界が訪れた。
─プツン─
と何かが切れた音がした。
痛みが消えた。
視覚からの情報が消えた。
私は死んだらしい。
(もう一度最初からになるのだろうか?)
目を覚まし、目標を再度決定した時に感じた
疑問の答えが映し出された。
そこは白い通路だった。
周りには人影がない。
私はすぐにコートを脱ぎ、
腹部のケガを確認する。
そこには傷跡のない綺麗な肉体があった。
私はすぐに部屋の中へと入り、
時間を確認する。
2027年2月28日16:23
私が一周目に部屋を出た時間は不明。
(これらの情報から考えると
私は最初の部屋から出た瞬間にシナリオが開始された?)
そう考えれば、この状況に説明が付く。
だが、何故この瞬間からなのか?
いや、時間が経過している場合もある。
まだ、断定することは出来ない。
「もう一度進もう。」
今は情報を確定させなくては。
私は先ほどと同じ道のりを進む。
白く、暗い通路がいつまでも続く。
(道中の変化は今のところない...か。)
...
下層への階段へと到着した。
前回では第三層の入り口付近に根がいたが...
今回はどうだろうか。
階段を下りる。
少なからず、恐怖心があるからだろうか。
階段周辺が寒く感じる。
一段一段慎重に下りる。
(もし、私の仮設が当たっているなら、
大丈夫だとは思うが...)
大丈夫であるという確証はないからだろう。
嫌な考えが頭に浮かぶ。
...
第三層入口へと着いた。
前回と同様に根はそこにいた。
首に縄が掛けられたような、
そんな感覚がある。
(何度死んでも、慣れないな。
いや、慣れてはいけないことか。)
私は再び、根へと近づく。
(魅了状態へとなったか。
やはり、視覚情報を遮断する方がいいか?)
私の体が無意識的に前へと進んでいく。
根は私に気付いたようで
成長の勢いを増す。
(魅了は、相手が瀕死状態になった場合に
解除されていた...が、
これだけでは解除条件として確定できない。)
(まだ、これについては検証することも出来ない...か。)
私は手を広げ、腹部を狙いやすくする。
(腹部を狙う理由は、
硬い部分があまりないからか?
腰椎を貫通したか分からないが、
臓器などが多く、血液を効率的に吸える...とかか?)
痛みが再び脳に伝達される。
思考が乱れ、深く考えに沈めない。
魅了は解除された。
私は本能的に根が刺さった腹部を見る。
先ほどと同じく、腹部に刺さり
下半身と上半身が筋肉だけで繋がっている。
(下半身の...感覚はない...)
私は最後の力を振り絞って、根を殴る。
だが、少女の力では硬い根の装甲によって傷は付かない。
「やは...り、私の...力ではダメか。」
力強く握られた拳はだんだんと力が抜かれ
腕はぶらぶらと空に揺れる。
─プツン─
と何かが切れる音が聞こえた。
痛みが消え、視界からの情報が消える。
私はまた死んだらしい。
もう一度私が眠っていた部屋へと入る。
時計には2027年2月28日16:22と書かれていた。
腹部を確認する。
ケガは何一つなく、綺麗な肉体だ。
だが、腹部を確認した際に
痛みが脳へと伝達される。
(これは精神的な痛みか...)
どうやら精神的なことは次の周に
持ち越すらしい。
(...さて、情報を整理しようか。
まず確定した情報は、
今私は新たなシナリオの中にいること。
始点は2月28日16:22だということ。)
(13番の魅了を
どうにかしないといけないこと。)
(...まずは、
魅了の対策方法を試してみるか。)
私が寝ていたベットへ座り、
少し前に考えていたことを実行する。
「聴覚による情報開示を開始する。」
『情報の開示は、
視覚や聴覚などの外界情報を受け取る器官を
利用し、情報を深くまで得ている。』
『現在、
ヒノは視覚だけで情報開示を行っているが
聴覚を利用することでも
確かに情報を得ることが出来る。』
「世界へ提案する。
視覚による情報開示を
聴覚による情報開示へと変更しろ。」
その言葉が世界へと届いたかのように
視覚の情報量が減る。
私はそのことを確認出来た後に
試しに瞼を閉じる。
『だが、人間は視覚情報に依存している。』
『そのため、
視覚情報に頼らずに情報開示をした場合
まるで始めて、自分の足で立つ子供のように
視覚情報以外での情報開示には
訓練をする必要がある。』
瞼を閉じると
今まで感じたことのない感覚に襲われる。
まるで、
口に無理やり餌を与えられているかのように
脳みそに拒否権なく、情報が送られていく。
(気持ち悪い...
前まで視覚情報で得ていた事が
脳みそに流れているだけだというのに)
私は口に手を置いて、吐しゃ物を抑える
「今は...これに慣れるまで...耐えるしかない...か」
...
(何分...いや何十分経っただろうか...)
ヒノは治まると思えない
拒否反応に襲われながら瞼を開け、
ゆっくりと動き始める。
視覚情報が追加され、吐き気がさらに増すが
机の上に置かれていた時計をなんとか持ち、
部屋の外へと出る。
(現在の時刻は16:58...
恐らく...今回は...
この症状が治まることはないだろう...
なら、今はこの検証を行おう...)
ヒノは、通路の壁にもたれて座る。
...
夏の香りが通路の先から感じた。
─ ─
通路の先で何かが音を立てる。
私は、吐き気に抗いながら夏の気配がした方を見る。
そこには緑があった。
緑は私に気付いたかのように
成長の勢いを増す。
(17:46でここまで来たか...)
ヒノは魅了状態となり、
抵抗することが出来ない。
無意識的に動く体が、
再び根が刺しやすいように
手を広げる。
痛みが脳へと伝わる。
根が腹部へと刺さる。
血が服へと滲み、根に吸われる。
「つぎ...おまえ...あいに...い」
─プツン─
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