第4話

 小屋の中を改めて見ると、調香部屋と販売部屋に分かれていた。だけど調香部屋で散乱した物が販売部屋にまで溢れていて、どちらも足の踏み場もろくにない。


「うわぁ、この瓶に入ってる黒いのはなんだ……?」


 ハクトウさんから渡された布で口元を隠した緒光香が掴んだのは、細長い三角形の妙な物が入っている瓶だった。臭いが漏れているのか、緒光香はなるべくそれを顔から遠ざけようとしている。


 謎の瓶を見たハクトウさんは「ああ!」と目を輝かせて手を打ち鳴らした。


「それ、魚の干物です! いやぁ、ちょうどそれを使って香りの調合をしようとしていたところなんですよ。見つかって良かった!」

「良くない! こんなの使わないでしょ!」


 思わず突っ込むと、ハクトウさんは困ったように眉を下げて笑った。なんとなく、これだから素人は、と言われている気がする。


「そう思われますよね……ところがどっこい、元店主の作る匂いは独特でしたので、使っていた香料は植物以外にもあったんですよ」

「だとしても干物はない!」

「いや……案外、隠し味的な感じで使うかもしれないぞ」


 緒光香が真剣な顔をして馬鹿みたいな事を言い出した。真剣そうに装っているが、よく見ると目が笑ってる。


「面白がってんじゃないの、ほら捨てる」

「いてっ」


 緒光香の背中を軽く叩いて瓶を奪った私は、瓶と中身を分けて捨てた。ハクトウさんは後ろで嘆いていた。


「あああ〜、調香に使いたかったのに……まあ、別に貴重な素材じゃないんでいいですけど」


 じゃさっきの嘆きはなんだったんだ。というか、神だから人間と感性が違うせいで調香の才能に恵まれなかったんだろうと思うけど、ここまで壊滅的で大丈夫なんだろうか。


 浄化した先の事を想像しかけたところで、私は妙な木箱を見つけた。これがまた、たまらなく臭い。果実臭どころじゃない。直球に臭い。


 箱の底面はドロッとした黒いものがついている……いや、中身が染み出しているらしい。何やらネバネバしている。絶句する私の様子を見に来たハクトウさんは、また「あ!」と嬉しそうな声をあげた。


「それ、発酵させた大豆なんですよ! 白いパヤパヤした毛みたいな物と黒い粒々が上に乗り出して、キノコみたいだなぁなんて思ってた矢先に無くしてしまってて……! これは貴重ですよ!」


 臭いの強烈さと、はしゃぐハクトウさんの両方に当てられて目眩がした。


「絶・対・に! 使っちゃ、ダ・メ‼︎」


 私の絶叫は虚しく空に響いたのだった。緒光香がゲラゲラ笑う声がやかましかった。

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