第27話 記録されない夜

佐藤は、その場に残った。




雨はまだ続いている。




地蔵は沈黙したままだ。




店主の老婆の言葉を思い出した。




助かる子がいるなら、それでいい。




あの声は、祈りを否定しなかった。




結果だけを見ていた。




佐藤は、深く悔恨する。




自分は今、


よその人の必死な思いの地蔵詣を阻んだ。




それが、子供の生命を危険に晒しているかもしれない。




因果は証明できない。




だが、祈りという形式を奪ったことは事実だった。




この場所では、距離が必要だった。




不在であること。


匿名であること。


直接触れないこと。




それが成立条件だった。




子供本人が立ち、


白い涎掛けに触れようとした瞬間、


形式は崩れた。




佐藤は、形式を守ったのかもしれない。




だが同時に、


祈りを遮断した。




帰宅後、ノートを開く。




深夜三時。


雨。


よその人。


子供。


介入。




書こうと思えば書ける。




だがそれは事象ではない。




観測対象に影響を与えた時点で、


それは記録ではなくなる。




それは、逸脱だ。




秘匿性の高い、いち観測者からの逸脱行為。




佐藤は、ペンを置いた。




何も書かなかった。




例外とは、


何かが起きた時ではない。




本来起きるはずだった行為が、


誰かの介入で起きなかった時に生まれる。




衣装は替えられた。




だが、祈りは成立しなかった。




その結果、


何かが失われたのか、


あるいは守られたのか。




佐藤は判断しない。




判断すれば、


自分が原因になる。




原因になった瞬間、


観測者ではいられない。




深夜三時。




記録されなかった夜。




だが確かに存在した。




例外は、静かに生まれた。




そして佐藤は、


観測者ではなくなった。


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