第5話 一番たくさんのお金を洗った者が勝ち ❣❓

 これは忠志が3年生くらいの頃かな、小学校の。その頃は私立の小学校に行っていたけどね。彼の小学校で遠足に行くことになったそうです。

 彼は、仲のいい同級生何人かにこんな「掛け」を持出したのよ。


「行った先のお寺の水で、一番たくさん金を洗った人の勝ちで賭けよう」


 何を賭けたのかは忘れたけど、まあそう大したものでもなかった。ともあれ彼、そんなことを言い出したのよ。遠足から帰ってきて彼が私の家に来て言うには、なんと彼はその賭けに一番で勝ったというではありませんか。

「どういう賭けをしたのさ? 一番たくさん金を洗った人の勝ちって、いくら私立の金持ちの多い家の子らの多い学校とはいえ、持って行っていいお小遣いの上限額が決まっているだろう。それより多くのお金を持っていったらその賭けには勝てるかもしれないけど、先生に見つかったらまずいだろう。何考えているのだ?」

 まったく呆れてものが言えないくらいには呆れた賭けではあったけど、彼はちゃんと合法的に勝ったよ、って言うの。

「それはシゲ兄、カンタンだ。一番たくさんのお金をお寺の水で洗った者の勝ちというルールにはしたよ。だけどそれには、コインやお札でなければいけないって決まりが含まれているわけ、ないじゃん」

 言われてみれば確かに、一番多いお金ということであれば、他にもいろいろ手段がないわけじゃないけど、小学生が手形や小切手を遠足に持って来たりはしないよな。子どもでも持てるものと言えば、そうか・・・。

「忠志、おまえそれ、郵便局か銀行の通帳を持って行ったとか言わないよな❓

 でも、通帳を水で洗ったら痛むだろうし」

 私のその疑問に、彼はさらに答えましたよ。

「さすがだ、シゲ兄。そうだよ。現金は、決められたお小遣いしかボクは持っていきませんでした。はい。郵便局の通帳を持っていったよ。残高はざっと1000円ほどあったっけ。落とし玉なんかを入れておく通帳にね。その通帳を入れたビニール袋に限度額いっぱいの小遣いも入れておけば、これでぼくの勝ちは決定的だ。ちなみにビニール袋で包んではいけないってルールもなかったからね」

「そこまで言うかぁ。そりゃあそうかもしれないけどなぁ」

 呆れる私をしり目に、忠志が言うのはこうだ。

「その手が使えるンだったら、忠志に楽々勝ったのになんて負け惜しみを言った子もいたよ。だけどそんなこと誰も思いつかないでしょ? そりゃあ、2度は同じ手を使えないかもしれないけど、1度だけなら使わない手はないじゃん」

「それ、勝ち逃げを狙ったってことか❓」

「そうだよ。次があれば、また何か考えるかな。それか、やらないかだよ」


 その話、結局先生にはバレなかったみたいだ。いちいち言っても君たち何をやっているのかってまた説教されても嫌だから、みんな黙っていたそうな。後にその小学校の同窓会に呼ばれて行ったときにその時の話になって、当時の担任の先生が呆れるのを通り越して大笑いされていたと言っていたね。

 潮干狩りの話もしたらしいけど、その話をしたら、さすが佐藤君だったンだなってことになって、公立にいた頃の話だから誰も知らなかったけど、その先生、久しぶりに心の底から笑える話を聞かせてもらったと言って御満悦だったそうです。


 潮干狩りのときもそうだけど、この賭けの話もまた、佐藤忠志という人物のいい意味での目的意識の高さを物語っていると思えてなりませんね。

 彼は遊び方面でもそういう頓智のような機転の利く人間でしたが、勉強面においてもそれに近いというか、真面目に考えるとそれはないだろうと思うけど、確かに目的に対する手段という視点から見れば、なるほどそういう考えというか手法というか、そりゃあなるほど、と思えることもやっていましたね。


 次は、彼の中学時代のエピソードを一つご紹介しましょう。

                              (つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る