第2話 見知らぬ地で
さっきまで居た、手術室はどこへ行ったのだろう。ライフドクターのメンバー達に、患者のアンも居ない。突然暗闇に襲われて声が聞こえるなど不可解な出来事に遭遇し、現に別世界の様な風景のなかに眠っていた。
テトアージュ、、、
アタシの住んでいた地球というトコロとは違うのか・・・
緑豊かで空気の澄んでいる風景。それは地球の自然風景にも在る世界観だが、それよりも美しく感じている。そこに異世界らしき痕跡はあるのかと疑問に思うと、この目の前にいる背の高くて人肌とも思えない耳の尖った変異種が証明している。
「エルフと言ったな?」
変異種である彼にその問いは無礼か、と思っていたのだが、彼は少しの驚きもせず、にこやかにこちらへそっと言葉を返してくる。
「私のことは、ライフと呼んで頂きますように――」
ライフ。彼は自分自身の事をそのように呼んでいた。アタシは同じくして名乗らなければと感じ、自己紹介を兼ねて静かに挨拶をした。
「アタシはライフドクター。ブラッディー・メイという」
すると彼は、こちらの反応を促すように手を差し出し、起立をさせようとする。まるで、道先案内人と言うべき態度である。周りには見た事のある幽体らしき魂のような形状が点在しているし、その様子にも動じない。何故なら医療現場における臨死体験について沢山の患者から聞かされていたからだ。それにしても彼は一体何者なのだろうと疑問に感じた。それに、アタシは手術室に居た筈だった。
「私の事は案内人とでも。そして貴女はテトアージュに魂ごと派遣されたのです」
「派遣・・・だと?」
その赤い目は私のペンダントよりも鮮やかで、吸い込まれそうな程にルビーと近い光を放っていた。一瞬派遣という言葉に戸惑ったが、類に見ない異彩を放っているし、どの血液よりも綺麗な色をしている。その目を見ては即座に直立した様に反応しなくては、と思わせられた。彼はこちらの問いを緩やかに答える。
「はい、メイ様。貴女を我がエーテル魔法にて派遣したのは私個人です」
そして彼の手を受け入れると同時に辺りを見渡せば、一つの石碑が見られた。どの石よりも美しい白を太陽の光に反射させている。何やら、言葉を刻んでいる様であるが、墓場なのかと疑問に感じてしまう。
「あれはエルフの先祖達の石碑にございます。様々な御言葉が残されております」
「先祖?言葉?」
「はい。魂との盟約を果たすための代物でございます」
「アタシに読めるかな?」
「魔法をかけて差し上げましょう――」
ライフという者はそういってアタシに言葉の繋がる魔法をかけた。すると、石碑に刻まれた言葉が見えるようになる。そこには種族を越えた婚約を果たし、伝説のエルフは旅路に出ると多くの文化や文明を乗り越えるだろうといった内容だ。
――つまりこの世界にも医療があるという事か。
「この石碑・・・例えば、どんな相手にも医療が施せると?」
「相違ありません。生命の再生技術だけでは追い付かない技術があるのです」
「それは?」
「貴女の世界にある失われた技術、“モード”といいますね」
「モード・・・」
アタシは外科・内科的医療の何れの科目も担当出来ていた。そういう意味のモードならあるが、話を聞くに彼の云うモードとは少々異なるようだ。この異世界では上位の医療技術があるというのか、それとも科学的な何かだと感じてしまう。それに自分自身の意識も明確ではないし、もう少しだけ情報を聞いておきたい。
「アタシは一体なにをすれば?」
「まず、意識の回復を終えてから、先程のライフドクターという役割を変えて頂きます」
モードというのは役割を変えるという言葉らしいが、職業を変えるよう促される意図を感じる。この世界から帰る方法としては、派遣されたという意味を先に確かめていくべきだ。だが、モードについて先に応えるべきか混乱して来た。異世界の流儀があるならアタシの世界の流儀は通用しないという事か。
「同じ職業ですが、役割を変えて頂くだけです。貴女へ魔法を授けます。それならこちらの世界でも手術用具も薬も使えるでしょう・・・」
「つまり、マジカルドクターとでも?」
「えぇ。水を得た魚のように・・・」
――なるほど。
◆
ライフという青年の誘導によって混乱が少し解けてゆくと、「どこへ向かえばいい?」と尋ねていた。つまりアタシは君の示すライフドクターを教えて欲しいのだと言っている。技術はともかく、このテトアージュへ呼び込んだ理由があるのだろうと欲する。ますます教えてほしいのだと望むようになり、アタシに用があるのなら今すぐに答えて欲しいと返事を求める。治療において即座の応答が出来るか出来ないかによってどの程度、命にかかわるかを理解する必要があるためだ。
「ラストドクター・・・つまり、ここには主な医師が存在しません。生命の体を繋ぎ合わせ、回復させる者が居ないのです」
「メリットは?」
「損傷した体の回復を早められるという点です。我が世界のモンスターは素材であり消耗しやすい。人間は事故で怪我をするが、痛みを強く感じられるのです」
「そこで、アタシを呼んだ?」
「はい。気付けばエーテル魔法と力任せな世界。救世主になっていただきたい」
――どれもこれも力任せ。方法を選んでいても選ばれた者にとっては救われるか救われないか、それさえも理解に遠く及ばない。しかしアタシなら――――、
「案内してくれ」
「では、この世界の住民票及び、職業登録を行います。ガールトークの役場へ案内致しましょう」
それにしても、このライフという者から、異質な何かを感じる。本当に道先案内人であるなら、わざわざ彼の云うとおりに手続きを済ませる必要は無さそうに感じるのに、この世界での役割を済ませる必要があるという。今のアタシの場合は、元に戻るというルートをくまなく掴まなくてはならない事のはずだ。
しかし、辺りを見渡してみると何という森林だろう。その高度はエベレストよりも高く感じ、目が眩みそうだ。空気も硬くなく柔らかく甘い香りがするし、電飾のように輝くものが点々としている。意識がもうろうとするのも無理はない。
そして何より冷たくて温かい――、
傷口ですら和らぐ――、
神秘的だ。
――こんな世界でなら、ずっと住んで居たい…。
――ガールトーク
冷たい空気と柔らかな温度の混じる場所。ライフに連れられて来たのは土埃すらない遺跡のある街であり、森の浸食が深々と刻まれている。誘導されつつも息を潜めるものの、彼が言うに、この街で手続きを済ませると同時に、住処を与えるとのことだった。アタシが想像するよりも単純な構造の建物が多くて、岩場に屋根が付いたような感じのする印象を受ける。壁肌もコンクリートに近い。
「ささ、メイ様、この街の突き当りに役場がございます。そこから貴女にある依頼が表されるでしょう」
「依頼・・・か」
この街には雑貨店からギルド、それに鍛冶屋に錬金術所、温泉の店があるという。雑貨と鍛冶屋と温泉という施設設備ならアタシの住む世界には在ったが、錬金術という言葉は歴史にしか存在しない。ましてやギルドという言葉は古く、特に気に掛かるのは人なのか異形なる者なのか、区別できない程に話し合っている様子だった。これも異世界ならではの生活なのだろうか。医療とは縁が有るとも思えない。
――役場
清潔感とは別に埃臭い匂いが漂う。この役場にはアタシの世界と共通点があり、幾つもの窓口もあり、そこで手続きを済ませる事で、生活の要となる資材が与えられるという機能は変わらない。アタシには医療器具と薬品が必要で、この異世界の場合だと技術的に異なる可能性がある。
「心配ありません。付いて来て下さい」
彼の話通りだと、これから変更される役割というよりも、生活にも関わる事なので今後の行動の鍵となるので貰えるなら大いに助かる。しかし、それと同時に異世界という特殊な環境においてそれはあり得るのかと疑問に感じた。もし、医療器具が手に入るなら医療業界とメーカー同士の申請が長い期間で行われる必要があるからだ。
「シャール、彼女に依頼を与えるのでしたね?」
「あぁ、ライフさん。そうですよ、ブラッディー・メイさんに依頼を与えるのです」
「アンタ、アタシの事を知っていたのかい?」
「ライフさんから聞いております。まずはエルフ達に会い、目的を得てください」
エルフがエルフに会うことが重要で依頼なのか?
まさか、行き詰った文明の技術にアタシが必要だと?
意味が分からない。
「ワークです」
「テールです」
「ミモリーです」
「あぁ、丁度居た。彼女がブラッディー・メイさん、貴方達の生命再生理論にも匹敵する医療技術を持ちあわせている人物ですよ」
「「「へぇ~凄いんだぁ~」」」
突然現れた彼等は口々に名前を名乗る。そして、自ら得た怪我をも治すと言われる「源泉」について治療効果がある等と、様々な意見を述べる。だが、それでも足り得ない技術があるから、アタシが派遣されてまで呼ばれたのだろう。
「彼女は名医なのです」
その言葉に納得し、分かっているじゃないかと念を押す。最初は異論を言いたくなっていた。だが、それも君が呼んでくれたからこそ、敢えて何も言わずともここへ居られる事を覚えておこうと思った。
「異世界テトアージュへようこそ」
―それとも――、
さようなら・・・かな―?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*ライフ:血の盟約と共に降り立つエルフでブラッディー・メイの相棒。一人称は「私」異世界テトアージュの案内人でもある。役場のギルドの職員。
*魂の世界・テトアージュ:エルフの地(街)のもと1000年余りの月日を経て石碑を置いている。温泉街と合同企画で元・エルコアージュの賑わいを助けている。敷地にガールトークの役場とコール遺跡がある。
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