EP.14 届かない頂



「…1!イーグル1!」


「ッ…」


「あ、気付いた…意識領域が急にオフラインになるから驚いたよ…」


「…すまん」


一体今のは…


周囲を見回しても、意識がオフラインになる前と後で変化した点は無い。蒼く染まった山々も星空も存在せず、ただ暗闇が広がり魔獣達の叫び声が聞こえるのみ。


それにログにはシステムに一時的なエラーが生じて再起動したとしか記載は無く、先程目にしたはずの白い生物の記録は、確認出来なかった。


だが、あれは確実に俺の眼前に現れて肩口から侵入した筈だ。だと言うのに、何故記録が無いのか。


-量子回路構築完了 亜空間ハンガー間接接続開始-


この世界に降り立つ前。アイアンソルジャーと成ってから共に戦って来た補助戦闘知能だが…近頃、不可解な現象が多すぎる。


こちらが要求していない情報の提供程度なら、まだ良い。だが、記録の改竄や抹消は今後の行動そのものが揺るぎかねない。場合によっては、システム自体の再起動を試みる必要があるだろう。


無論、再構築を行うと知能内部に蓄積された各種データが失われる事になる。故に、確実に損害が生じると言える様になるまでは実行は出来ないが。


亜空間ハンガーその点に関しては 接続完了申し訳ないです


左腕構造情報解析でも貴方が貴方であるためには 左腕再構築開始必要な事なのです



…まぁ、再起動せずともシャットダウンすると言う手段もある。それに現時点で、明確にシステムの独断行動で損害は発生しておらず、つまり俺の取り越し苦労の可能性も否定出来ない。


再起動によって失われるデータと、再起動しなかった事による損害。その選択をする時に改めて考えても遅くは無いだろう。


(どちらにしろ、今後も必要な存在である事には変わりない)



量子が、収束する。


蒼白い燐光が装甲の隙間から漏れ出し、渦巻きつつ俺の左側に集まる。そして、左腕を上から順に形作っていき、僅か数秒で…完全な左腕ユニットが復元された。


「ふむ…」


-左腕駆動部 動作異常なし-


元通りになった掌を開閉しながら腕を曲げ伸ばして、動作の確認を手早く済ませる。エネルギー回路、C.I.S、その他内蔵武装も異常は無し。


他のアイアンソルジャーを介した間接接続による修復は初めての経験だったが、問題無く終了した様だ。


「これでOKかな」


「そうだな、少なくとも通常形態での戦闘力は100%発揮出来るはずだ」


「分かった、じゃあ…もう始める?」


「あぁ、始めるとしよう」





『濡羽より本部及び各部隊、目標方向で莫大なエネルギー放射を観測。接近する際は十分警戒されたし』


『本部了解。栗駒山攻略班が現着するまで濡羽は上空待機、情報収集に努めろ』


『紅、了解した。我々の現在位置からイナズマの信号発信地点まで想定15分。もし明確な脅威が確認された場合は直ちに報告を』



両耳につけた通信機から、軍人さん達のやりとりが聞こえてくる。


あれから私は、遅れて到着した軍人さん達と施設の制圧と調査を交代して、プロフェッサーと共に消えたイナズマちゃんの後を追っていた。


イナズマちゃんが消えてからしばらくの間は位置情報が分からなかったけど、私達が地上に出るのとほぼ同じタイミングでイナズマちゃんの位置情報データが発信された。そしてそれは、あの強化人間の子が言っていた場所とほぼ同じ。


そのため、司令部はイナズマちゃんの無事を確認すると共に、目的の一つであるプロフェッサーの撃破を確実に達成するべく、交代した後にそのまま帰還する手筈になっていた私達に白羽の矢を立てたのだ。


ただ、アリスとハルカは魔力欠乏症に伴う体調不良で未だ栗駒山で待機。


代わりに私は彼女達の分も合わせた回復薬で魔力の補充は済んでいるし、ヘリコプターの機内にいる軍人さん達も、弾は補充されている。


それに、イナズマちゃんが簡単にやられるわけが無い。エネルギー反応というのも、多分イナズマちゃんの攻撃だと思うし…けど、プロフェッサーがそれだけの相手って事かもしれない。


油断は禁物だ。


『ツルギ隊、現場上空に辿り着いたら先ずは上空から情報を集める。場合によっては貴官達が先に地上に展開。濡羽と連携してイナズマを救出するんだ。我々は援護を行いつつ、他の敵の排除を行う』


「分かりました」


通信に答えながら、私は顔を窓に押し付け進行方向の景色に目線を向ける。


夜の帳が下りた魔獣支配領域は、至る所で紫の光が輝いていて……イナズマちゃんが居るであろう場所では眩い閃光が立て続けに起こっていた。




まだ数十kmは距離があるはずだけど、時刻が夜ということもあって遠くの光がよく見える。だからか、私がその異常に気付いたのは直ぐだった。


「ん?」


瞬きの間に、紫の光の波が見えた気がして目を凝らす。


一瞬で雲に隠れてしまったけど、遠目に見えたのは、地を這う夥しい数の光の点。気のせいじゃなければあれは…


『濡羽より本部。緊急事態だ。白神山地の山中から大量の高脅威度魔獣が出現。かなりの速度で南下を開始している。新潟戦線に警告を出せ』


『こちらでも捉えた。現時点での数は627。なお増加中だ。脅威度の割合は…ッ嘘だろう…』


『どうした?』


『現れた魔獣は、凡そ100体がS級魔獣だ。不味いぞ、新潟戦線でも耐え切れるか分からない』


通信機からその言葉が聞こえた瞬間、機内の空気が凍った。


S級魔獣と言うのは、単独でも人類に甚大な被害を出しかねない強さを持つ魔獣に割り当てられる。基本的に、一体いれば街が一つ壊滅すると言えば分かりやすい。


もちろんS級魔獣の中でもかなり強さに差があって、私と同等の魔法少女が連携すれば倒せる様なものも居れば、ヒュドラの様な別格の存在も居る。


今大量に溢れ出している魔獣達の中にヒュドラが居るのかは分からないけど、居ないと言う確証も無い。


だとしたら、私達は凄まじく危険な場所に足を踏み入れる事になる。


……けど、イナズマちゃんはその中で今も戦っている。なら私が逃げる訳には—————


『待て、S級魔獣の反応が減少し始めたイナズマと……なんだこれは』


『濡羽より本部、イナズマ及び、彼女と同一の見た目をした魔法少女が魔獣の群れと交戦を開始した。周囲にプロフェッサーらしき存在は確認出来ない…どうなっている?』


「……あっ」


確かに、あの子ならイナズマちゃんと同じ強さを持っていてもおかしく無い。


そして、イナズマちゃんは普通のS級魔獣相手に遅れを取ることは絶対に無い。ヒュドラでさえ、2体が続け様に挑んで片腕が精一杯だった…なら、そんな強さの子が2人いたら?


当然、日本を滅ぼしかねない死の行進は強化人間による蹂躙劇に早替わりするはずだ。


「あのッ!ここから目的地まで後どの位ですか!」


『イナズマの反応も南下してきている、精々20km程だろうが…「なら、先に行きます!」何?』


言葉を待たず、私はヘリコプターのドアを開けて星が瞬く空に飛び出した。


「天賦解放、星導走スターライナー


風を受けながら、直ぐに魔法を発動。


長距離は飛行出来ないけど、20km程度ならヘリコプターに乗ったままより直接飛んでいった方が速いと判断したからだ。




…そして、紫の軍勢を上空を飛ぶこと数分。


私の視界に、荒野を疾駆する2人の灰色の少女が映った。



翠と蒼の瞳はよく目立ち、光の軌跡となって夜闇に不思議な模様を描いていて…2人は阿吽の呼吸で魔獣達を撃破していく。


私達がイナズマちゃんと共に戦う時は、イナズマちゃんが攻撃する際に必ず距離を離さなければいけない。本気の一撃は躱せないし、もし当たれば、私達が無事じゃ済まないから。




だけど、翠の子も、イナズマちゃんも、お互いの攻撃を気にする様子は全く無く、ただそう戦う事が自然な様に振る舞っていて…………それが、どうしようもなく胸を締め付けた。












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