EP.07 電子の円卓




現日本国首都、名古屋市



政府官邸のすぐ横に建っている銀色のビルはイージス日本支部。


そしてその最上階に位置する支部長室は暗闇に包まれていて…中央には天井から投影されたホログラムの円卓があった。


『ヨーロッパにおける〈セイヴァー〉の活動は下火になっており…』


『…以上が、ヨーロッパ支部からの報告となります』


『ご苦労』


円卓と同じく投影された、茶髪に眼鏡をかけた男が話を終わらせ、白髪混じりの壮年の男が短く返す。


茶髪の男はイージスヨーロッパ支部長、〈ルイ・マルタン〉。白髪混じりの男はイージス本部長〈アルバート・ミラー〉だ。また彼らの他にも、世界中に9個存在するイージス支部それぞれの長が円卓を囲み、互いの話に耳を傾けていた。


『では続けて、日本支部お願いします』


「はい」


電子音声に返事をして席を立つのは、艶やかな黒髪を持つ女。


イージス日本支部長〈砂原ユキ〉。


立ち上がった彼女は、以前イナズマと対面した際の脱力感を微塵も感じさせない雰囲気で以て、口を開いた。


「先ず、日本国における対魔獣防衛は現状、概ね問題ありません。未だ激しい戦火が上がっている新潟戦線も、日本国国防軍との協力により魔獣の押さえ込みに成功しています」


新潟戦線。1ヶ月前から続く魔獣の大侵攻を封じ込めるために、日本国国防軍が信濃川に設置した防衛線である。しかし、イージス日本支部に所属する魔法少女の、凡そ4割が配置されているため、以前から度々話題に上がっていた。


砂原が最初にこの話を出したのは、一々突っ込まれるのが煩わしかったと言うのもあるが、何よりに時間をかけたいと考えたからである。


「次に、日本国に出現した新たな魔法少女についてです」


言うと同時に砂原は、円卓の中央に映像を表示させた。


そして映像には、灰色の装甲服を纏った少女が魔獣の群れを蹂躙する映像が映し出される。


「なるほど。噂には聞いていたが、新人とは思えない強さだな」


「格闘戦主体か。それにミノタウロスと正面からぶつかれる膂力…興味深い」


それなりに衝撃的な光景が繰り広げられているにも関わらず、まるで動じる事なく口々に言う支部長達。やがて映像が終わると、砂原は別角度から撮られた映像を流し始める。


無論これらの映像は配信から切り抜いた物であり、本来誰でも閲覧可能だ。しかし砂原は、予測不能の塊であるイナズマへ事前に許可を取った上で、今こうして映し出していた。


これにより、イナズマから砂原への評価がやや上昇していたのだった。




「今閲覧頂いた映像に映っている少女が、新たに日本に現れた魔法少女です。既にHPなどに記載してありので知っている方もいらっしゃるとは思いますが、改めて共有します。魔法少女呼称、イナズマ。魔法名は鉄の咆哮アイアン・ロア。魔法の効果としては、強力な灰色のパワードスーツを呼び出します」


一息つき、砂原はイナズマが強化人間である事を隠すために、考案したカバーデータを話し始める。


「件のパワードスーツですが、極めて効率的な動力回路が構築されており、外部からの魔力感知が不可能という結論に至りました。またイナズマ本人の保有する魔力量は、。〈終末の魔法少女〉以来、史上11人目のシンギュラリティ永遠の魔力保持者である可能性が高いです」



無論嘘は言っていない。


イナズマのスーツから魔力が観測されないのも本当、本人の魔力を測定出来ないのも本当だ。過去に存在した〈シンギュラリティ〉の魔法少女達とは理由が全く異なるだけ。


『…どうだ?』


アルバートが、自身の横に立つ翠髪の〈真実の魔法少女〉へ問い掛ける。彼女が会議に呼ばれている理由は、かつて発生した支部長による魔法少女の私有化を防ぐためだ。


そして、真実の魔法少女は首を横に振る。…嘘ではないと判断された。


この事実に砂原は内心胸をなでおろし、アルバートの言葉を待つ。



…砂原がイナズマが強化人間である事を隠すのは、イナズマ本人の意向に他ならない。


魔法ではなく科学の産物、しかも上位の魔法少女に匹敵する武力を保有するイナズマの正体が明るみに出れば、世界が彼女を放置しておくはずがない。そうなると必然的にイナズマの目的や在り方との衝突が発生し、双方共に良い未来には繋がらないからだ。


また、イナズマを未だに縛り付ける法…〈他文明への技術供与の禁止〉も、同じく強化人間である事を世界に明かせない理由となっていた。


そして現時点でこれの例外となっているのは、八雲スズと砂原ユキの2名、そしてイナズマが信頼に値すると判断した日本支部上層部の一部のみである。




解剖でもしなければ分からない正体と違って、魔法少女として戦う上での強さはいつバレるか予想が出来ない。ならば、最初から強大な魔法少女として位置付けを行った方が確実に良い方向に進む。


そう判断した上での、行動。


『…続けたまえ』


「はい」


(よし、どうにか最難の関門は突破した。後は…)


「シンギュラリティである事、また先の映像に映っていたように強大な戦闘能力を持つ事を鑑みて、日本支部は彼女をA級魔法少女に認定します」


A級魔法少女認定。事実上の、日本支部への専属化宣言である。


強力な魔法少女が取り合いになるのはもはや共通認識にすらなっている。が、A級以上の認定は魔法少女側が受け入れなければ成り立たない上、認定した支部は、魔法少女の行動に全責任を負う事になる。


また、認定した支部から魔法少女が異動する事はほとんど無いため、そう専属化見なされるのだ。


(流石に今なら通るはず、まだあまり実績を挙げられていない魔法少女の責任を持てる支部は…)



現段階では他の支部からイナズマはそれ程魅力的に映っていない。


先の発言も、”新人にしては“、魔法では無く格闘戦という“物珍しさ”から上がったものであり、シンギュラリティの可能性はあるものの、格闘戦主体である事、そもそも実績が少ない事等が理由にあげられる。


つまり、この段階で専属化出来れば日本支部は強力な戦力を手にし、イナズマ側も他国よりは確実に理解ある支部に留まる事が出来る。


『オーストリア支部、異論なし』


『アフリカ支部、異論なし』


『ヨーロッパ支部、異論ありません』


口々に言う支部長達。ただ実際、この場において宣言された時には取り合いの趨勢が決している事が大半なため、ある意味砂原の心配は杞憂である。表立って取り合うのはどの支部も避けるからだ。


『日本支部によるイナズマへのA級認定を許可する』


最後にアルバートが宣言し、砂原は感謝の言葉を述べた後、席に座るのだった。









『イナズマより八雲スズ。目標を撃破した』


「おっけー!こっちはもう終わったから先に戻ってるね」


『了解』


通信を切って、隣を歩くハルカに視線を向ける。


一宮市に出現した魔獣の討伐任務を終え支部に戻る道中、私はハルカにある事を話し始めた。


「…なんだけど…決行日は明日、良い?」


「…お、ついにやるんだね…!」


「丁度アリスの治療も終わるし、タイミングとしてはバッチリだと思う」


ミノタウルスとの戦いで怪我を負った、正確には自分の魔法で負傷したアリスはここ数日、外出出来ない事を嘆いてた。それに、正面から誘っても多分頷かなそうなイナズマちゃんをするには人数は多い方が良いし。


支部長に許可も貰ったから心置き無く例の作戦…〈イナズマちゃんと仲良くなろう作戦〉を実行できる…!


「楽しみだなぁ…」








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