第6話 ボールの音

三日目の放課後。


七人は、

昨日と同じ場所に集まっていた。


でも、

足どりは、

少しだけ重い。


「今日は……

どうする?」


優奈が、

空を見上げながら言った。


雲は低く、

夕方が近い色をしている。


「もう一回、

このへんを見てから帰ろう」


奈緒美が言うと、

みんな、

無言でうなずいた。


住宅街の道を、

ゆっくり歩く。


知っているはずの道なのに、

今日は、

どこかよそよそしい。


もし、

見つからなかったら……


京子は、

そんなことを考えてしまい、

小さく首を振った。


そのとき――


ドン。


重たい音が、

遠くから聞こえた。


「……今の、なに?」


七人は、

同時に足を止めた。


ドン。


もう一度、

同じ音。


壁に、

何かが当たったような音だった。


京子の胸が、

どきっとする。


この音……


「ボールの音じゃない?」


音乃が、

指をさす。


音のするほうへ、

みんなで歩き出した。


細い道を曲がる。

さらに、

もう一つ角を曲がる。


見たことのない道。


「こんなとこ、

あったっけ?」


誰かが言った。


ドン。

コロコロ……


音は、

確かに、

近づいている。


やがて、

道がひらけた。


その先に――

小さな公園があった。


「……あ」


京子は、

思わず、

声をもらした。


公園のまんなかには、

半分だけ盛り上がった、

ドームみたいな小さな山。


その上から、

一本のすべり台が、

ずーっと下まで伸びている。


「同じ……」


「夢の……」


七人は、

言葉を失ったまま、

立ち尽くした。


間違いない。


京子の夢に出てきた、

あの公園だった。


「ほんとうに、

あったんだ……」


誰かが、

そう言った。


七人は、

顔を見合わせ、

そして、

同時に走り出した。


すべり台をすべり、

山にのぼり、

笑い声が、

自然にこぼれる。


夢と同じなのに、

ちゃんと、

地面の感触がある。


夢じゃない……


京子は、

胸いっぱいに、

息を吸った。


そのとき、

公園の奥から、

ボールが転がってきた。


それを追いかけるように、

男の子が走ってくる。


サッカーボール。


夢の中で見た、

あの男の子と、

同じくらいの年。


京子の心が、

また、

強く鳴った。


あの子……


京子は、

少しだけ、

勇気を出して、

声をかけた。


「ねえ……

一人で練習してるの?」


男の子は、

少し驚いた顔で、

こちらを見た。


そして、

小さくうなずいた。


「うん」


京子は、

ボールを拾って、

差し出した。


「よかったら……

手伝おうか」


男の子は、

少し考えてから、

言った。


「……僕、

ソウタ」


その名前を聞いた瞬間、

京子は、

なぜか、

とても大事なことを

教えてもらったような気がした。


夕方の光が、

公園を、

やさしく照らしていた。

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