第8話 真面目に仕事してから、エプロン姿に萌える
文化祭。
これは本来、体育祭なんかと並んで学校の年間行事の中でも大きなウェイトを占めるものだ。
しかしこの学校ではそんな常識は通用しない。
無駄に三日間という長期開催日程になっているくせに、催しもほとんどなく、参加者ももちろん皆無。
いわばこの間は、教員も生徒もサボり放題というわけで。
文化祭とは、公然とサボるための口実にしかなっていない。
しかもその間、もぬけの殻になった学校には他校の不良たちがたむろしたり。
去年なんてグラウンドでバイクレースが開催されていた。
もちろん触らぬ神に祟りなしということで、その間は誰も学校には近づかない。
それがこの学校。
私立灰谷高校。
親父の学校。
俺の学び舎。
「で、男女で盛り上がるイベントって何があるんですか?」
「ああ、それはだな」
「おっぱい大好き星人は黙っててください」
「……」
みなみ会計様はお怒りの様子。
俺を無視して萩村に問う。
「副会長も、何か提案してください」
「おっぱいパブ?」
「男しか喜ばんでしょそんなん!」
みなみよ、そのツッコミは少々違うぞ。
まず、そんなの学校でやれるか!
「じゃあ、メイドカフェ?」
「それも男しか喜びませんよ。もっとこう、お化け屋敷とか」
「わー、すっごい楽しそう」
「あと、体育館でのライブの席をカップルシートにするとか」
「うんうん、いいねいいね」
「それに、フードコートでも、カップルでのご来店ならドリンクサービスとか」
「すごーい、じゃあそれで」
「お前もなんか考えろや!」
最後に突っ込んだのは俺じゃない。みなみです。
敬語を忘れてあらぶってました。
でも、さすがのみなみだ。
次々と案が沸いてくる。
この調子なら、今年の文化祭は行けそうだ。
「会長も、もう喋っていいですよ」
「こほんっ。じゃあ早速本題に入るけど、文化祭実行委員というのを選定する必要があるな。去年はどうなってた?」
「去年の実行委員は三名。いずれも三年生でしたから卒業してますね」
「ふむ。経験者はなし、か。そういえば、去年の文化祭の時にみなみは何をしてたんだ?」
「え、バイクレース出てましたよ」
「お前も参加者やったんかい!」
相川みなみ。
誕生日は四月六日。
十六歳になってすぐにバイクの免許を取得。
趣味はツーリングだとか。かっけえなおい。
「学校の敷地で何やってんだよ全く。萩村はどうなんだ? まさかお前までバイク乗り回してたとか言うなよ」
「ええと、なにしてたかなあ」
「覚えてないのかよ。まあいいけど」
「でも、灰谷君のことを考えてたのかな? えへへ」
「きゅんっ」
今、胸がキュンってなった。
彼女の胸はプルンと揺れた。
あ、ダメだこれ。可愛すぎて惚れちゃう。
……じゃなくてだな。
去年は知り合ってもないんだし、社交辞令だってわかりなさいよ俺。
「……ゴホンッ! ええと、とりあえずまずは文化祭実行委員をスカウトするのが明日からの任務だ。みんな、頼んだぞ」
「会長、一ついいですか」
「ああ、なんだみなみ会計」
「明日は、学校おやすみですよ」
◇
最近は学校のみならず、仕事でもなんでもそうだけどとにかく休みが多い。
昔は半ドンとか言って、土曜日でも午前中は学校があったってのによ。
ちなみに半ドンとは、半分のドンタク(休日)という意味だとか。
ドンタクって、オランダ語で日曜日という意味のzondagが訛った言葉だとか。
だから何だという話だ。
そう、今日は土曜日だ。
土曜日の朝はいつも持て余す。
今日一日と、また明日一日が休みとなれば、趣味も部活もない人間からすれば退屈以外の何ものでもない。
親父も土日は朝からゴルフでいないし。
さて、優雅に朝飯でも食ってから生徒会室に行って勉強でもしようかな。
二階にある自室を出て、一階に降りると。
……はてさてどういうことか、いい匂いがする。
これはもしや。いや、もしかせずとも、だな。
「あ、おはよう灰谷君」
「でたな萩村。今日はなんとなく予想がついてたから驚かな……ななな!?」
なんということでしょう。
今、同級生が俺の家のキッチンで料理をしているんだけども。
エプロンをしてるんだけれども。
でも。
「お、お前エプロンの下に服着てないだろ!」
「えー、下着はつけてるよ?」
「振り向くなー!」
正面から見たら完全に裸エプロン状態に見えた。
もう、心臓のドキドキが止まらない。
慌てて目を逸らしたが、萩村が近づいてくる気配が。
「く、くるな」
「灰谷君、今ならおっぱい触れるよ?」
「え?」
「今日はね、朝ご飯と一緒に私も堪能してほしいなって。どうかなあ?」
「どうかなあって……」
どうかなあって。
訊くまでもないよなあ。
考えるまでもないんだよなあ。
触るよなあ。うん、触るしかないよなあ。
「……いや待て。このパターンはみなみが来るやつだ」
「相川さんは来ないよ?」
「え、なんでそんなことがわかる」
「私が……いえ、なんでも」
「意味深なのやめて! 怖いから」
「私が電話したら今日は買い物に行くとかいってたから」
「あ、そういうことね」
一瞬ヒヤッとした。
この摩訶不思議おっぱいなら何をしても不思議ではない。
まあしかし、みなみが来ないというのであれば……
『ぴんぽーん』
萩村の方を向こうと立ち上がった時に、玄関のチャイムが鳴る。
間が悪い訪問者だ。
でも、宅配なら後でいいし、俺に来客はない。
無視だ無視。
『ぴんぽーんぴんぽんぴんぽん』
……しつこい客だ。
居留守を使ってるのがなぜわからない。
今俺は、人生の重要な分岐点に立っているのだ。
今日を境に俺は漢になれるかもしれない。
そんな重要な局面で、誰かもわからない来客になど……
「ごるああああっ! 開けんかーい!」
「はーいみなみ様ー!」
わかってはいたけど、やっぱりみなみだった。
玄関に走って行って急いで鍵を開けてからまず土下座。
居留守を使ったつもりはありませんトイレで大きい方をしてましたと嘘をついたけど。
言い訳すんなと言って怒られました。
「まったく。なんですぐに出ないんですか会長」
「え、いや、だからお腹が痛くて」
「絶対嘘ですね。まさか、今日も萩村さんを」
「あ!」
そうでした。
萩村さんがいたんでした……。
「このスケベ会長め。やっぱり来てみて正解でしたよ」
「待てみなみ、奥には行くな! 頼むから行かないでくれ」
「萩村さんに挨拶ですよ。今日という今日はガツンといってやりますから」
「頼むから! 行かないでくれ!」
萩村みさきは。
現在下着姿にエプロンを着用。
それをみなみが見て何を思うか。
何を想像し。
どんな罰を俺に課すか。
いうまでもなく。
「このくそ変態会長めが! 死ねー!」
「あー!」
滅多打ち。
何を、どこをとは敢えて言わないけど。
滅多打ち。
のちに正座。
言うまでもなかった。
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