第2話 ここは俺の家

「はい、触っていいよー」


 くいっと胸を突き出すような姿勢をとる萩村。


 それに対して色々な理由で前のめりになる俺。


 今ここは、神聖なる生徒会室の中です。


「あ、いや。ここ、学校だから」

「でも、誰もいないよー」

「そ、そう、だけど」

「それにこの学校、灰谷君のお父さんが経営してるんだよねー」

「う、うんまあ。そうだけど」

「じゃあ灰谷君のおうちみたいなものだねー。はい、おっぱいどうぞー」


 なんともゴミみたいな理屈だが一理ある。

 この学校は親父の所有物で、この部屋はいわば俺の為に親父が用意したもの。

 だとすればここは俺の部屋と同義ではないか。


 つまり今の状況は、超かわいい女の子を、しかも自らおっぱいを差し出してくる女の子を部屋に連れ込んでいるのと同じこととなる。


 いや、そういうことだ。 

 そうでしかない。 

 萩村にこりゃ一本取られた。

 だから俺の負けだ。素直に彼女の言い分を認めようではないか。


 もう、勝手に色々理由づけて同級生のおっぱいを学校で合法的に触る理由を探していた。

 そして、


「し、失礼します」


 もう俺が一番風紀が乱れていた。

 生徒会室に女子を連れ込んで胸を揉むなんて職権乱用どころの騒ぎではない。

 でも、無理だ。理性なんて、所詮は犯罪を犯さないためのものでしかない。

 これは向こうからの提案で。だから合意のもとで。

 そう思うと、彼女のおっぱいに伸びる手は止まらない。


「ちょっと待ったー!」

「わー危なかったー!」


 バーンと扉を開けてみなみが入ってきたことで、俺の品性は保たれた。

 危ない。実に危ないところだった。


「こら会長! なにしてるんですか」

「あ、いやこれはだな」

「いきなり二人で学校に戻っていくからあとを追いかけて正解でしたよ。今、萩村さんのおっぱい触ろうとしてたでしょ」


 みなみの視線が怖い。

 もう変態を見るような目で俺を見下してる。


「違うんだよ。あの、これには深いわけが」

「触らないの? おっぱい」

「お前はちょっと黙ってて!」


 みなみがいてもお構いなしな萩村は、なんで触らないの? といった感じに首を傾げる。

 いや、触れないだろ今は!


「会長、会長がそんなんじゃこの学校はよくならないですよ。自制してください」

「はい、ごもっともです……」

「会長がちゃんと会長任務をやり遂げてくれなかったら私の推薦はどうなるんですか。それを一番によく考えてください」

「一番にそれを考えてるお前ってほんと図々しいな!」

「あの、おっぱい」

「「今は黙ってて!」」


 みなみと俺のツッコミに、少し残念そうに下を向く萩村は、そのまま近くにあるソファに座り込む。


「あ、ごめん。ちょっと言い過ぎたかな」

「じゃあ」

「触らないけどね! ていうか、なんでそんなに触らせたいの? え、痴女なの君?」


 別に俺は処女幻想なんてものは持ち合わせてないし、触らせてくれるのならはい喜んで、だけど。


 これほどまでにグイグイくるとさすがに怖くなる。 

 みなみのおかげで理性を取り戻した俺は真っ直ぐ彼女を見て尋ねる。


 すると、


「だって灰谷君、タイプだからー」


 そういって頬杖をつく萩村。

 予想外の嬉しい言葉に、揺れる心。

 そしてゆれる、おっぱい。


「あ、え、俺が?」

「うん。初めてはタイプの人がいいなって」

「はじめて……じゃ、じゃあ俺と」

「会長、私まだいるんですけど」

「あ、すんましぇん……」


 みなみにまたしても怒られて、なんとか理性を保つ俺。生徒会長。

 今やみなみが俺の最後の砦。彼女がいなかったら俺、我慢できない。


 でも、それくらい萩村の色気は凄まじい。

 ムンムンと撒き散らす色気が、俺の欲望を駆り立ててくる。

 

 唇が瑞々しい。

 ぷりっぷりだ。


 足も綺麗。 

 細くもあり、柔らかそうでもある。


 そして何より胸。

 埋めたい、顔を。 

 触りたい、全力で。


 ただ、全力でなくともそんなことをしたら即アウト。

 俺はこの学校を改革するためにここにいるというのに、先陣切って学生の性生活を崩壊させる行為を働くなど言語道断。

 ていうか、みなみがすんごい目で見てるから自粛しないと……。


「こほん。あの、萩村さん。今日は折りいって話があってですね」

「初めての時は着けずにしたいとかー?」

「そういうのって男子はみんな妄想しがちだけど決してそんな具体的な話じゃないよ!」

「え、そうじゃないのになんで私に声かけたのー?」

「そんな理由でもないと声かけたらダメなのかとこっちが聞きたいくらいだよマジで」

 

 萩村みさき。

 この子は少々、いやだいぶ狂ってる。

 特に貞操観念とやらが。


 ただ、声をかけたのには本当にやましい理由など皆無で。

 彼女を副会長として迎え入れるつもりだったのだけど。


「いや、もういいです……俺の見る目がなかったようだ。お引き取り願います」

「じゃあ、灰谷君は私を抱かないの?」

「……抱……かない!」


 潤む瞳で見つめられてまたしても理性と品性を悪魔に売り飛ばしそうになったが、みなみの強烈な睨みによってそれは回避。


「とにかく、今日は帰ってくれ」

「先に?」

「一緒に帰るもんか。先に帰れ」

「わかったー」


 萩村には、そのまま生徒会室から出て行ってもらった。

 少々きついものの言い方をしてしまったが、あの手の変人にはそれくらいストレートに言わなければ趣旨が伝わらないものだ。

 ようやく、静かになった。


「全く。なんなんだあいつは。典型的なビッチじゃないか」

「とかいいつつ、目がぎらついてましたけどね会長も」

「そ、そりゃあんな露骨に誘惑されたら……しかし副会長探しも、また一からやり直しか」


 萩村との、いや己自身の忍耐力との攻防戦を終えた頃には既に日が沈みかけていた。


 みなみと二人で部屋を出て、今日はそのまま帰宅することとなる。


「そういえば会長って童貞なんですか?」


 帰り道でのこと。

 みなみ会計からの唐突な質問だった。


「な、なんだよ。悪いか」

「いいえ別に。でも、彼女も初めてとか言ってたなって」

「そ、それがどうしたんだ。もう萩村のことはいいだろ」

「普通、未経験の女の子があんなに積極的にくるかなって。よっぽど会長がタイプだったのかなー」


 そう言われてみれば確かに。

 ビッチなどと罵ってしまったが彼女は自己申告の域を出てはいないが未経験だと。


 そんな子が急におっぱいを差し出して。 

 あろうことか学校でえっちを迫るなんて。


 うーん、冷静になるまでもなく怪しい。

 いくら俺がかっこいいと言ってもそれは怪しすぎる。

 何か裏があるに違いない。

 うん、やっぱり一時の感情に身を任せなくてよかったー。


「みなみ、今日は助かったよ。今度お礼をさせてくれ」

「じゃあ推薦は国立でお願いしますね」

「……考えとく」


 全く可愛げのないやつだ。

 顔は可愛いのに。可愛い後輩マネージャー風なのに。


「じゃあまた明日」

「はい、お疲れ様でした会長」


 俺の家は学校のすぐ近くにある。

 一軒家の、結構広いうちなのだけど暮らしてるのは親父と二人。

 それに親父はいつも何かの会合や付き合いやらで帰宅するのは夜中になって。

 だからほとんど一人。

 それもまあ、慣れたものだ。


 誰もいない家にでも、入るときはちゃんとただいまを言う。

 これは親父の教え。

 挨拶を欠かさない人間になるための習慣だということで続けている。


「ただいまー」

「おかえりなさーい」

「……」


 今、おかえりなさいって聞こえたような。

 いや、気のせいだ。

 母親は俺が物心ついたころに家を出ているし、家政婦とかも雇ってはいない。

 もちろん兄弟もいないしルームメイトたるものもおらず。

 なんなら幼馴染なんてやつも俺には無縁のはずだけど……。


「た、ただいまー」

「おかえりなさーい」

「やっぱり聞こえた!」


 これはなんという怪奇現象か。

 誰もいないはずの家の中から女の子の声が。

 いや、冷静に考えたらこれ、泥棒か?

 待て待て、泥棒がおかえりなさいとかいうか普通?


 それに、あの声。

 つい最近聞いたばかりのような。


「おかえりなさい灰谷君」

「わー! ……って萩村!?」


 奥の部屋から姿を見せたのは。

 さっき知り合ったばかりの同級生、萩村みさき。

 なぜだ。なぜ、彼女がここにいる?


「萩村、おまえなんで」

「先に帰っててって言われたから」

「誰が俺の家に帰れといった! それに、どうやって入ったんだよ」

「うーん、秘密?」

「……」


 指を口にあてて、首を傾げる彼女の様子を、ちょっと可愛いなとか思ってしまった。

 でも、そんなことでは誤魔化されないぞ。

 もし勝手に家に入りこんでいたというのならこれは立派な不法侵入だ。


 まあ、同級生のよしみで警察沙汰になるのは避けてやるとしても。

 さっさと追い出してやる。


「とにかく、ここは俺の家だからさっさと」

「おっぱい、触らないの?」

「……」


 また。

 彼女がおっぱいを差し出してくる。

 両手を後ろに組んで、胸部を強調する姿勢をとりながら上目遣いで。

 俺の固い意志が揺らぐ。

 そして揺られる、おっぱい。


「いや、だから、それは」

「ここは学校じゃないよ? おうちなら、いいんだよね?」

「あの、それは、その」


 もう、なんで彼女がここにいるのかなんて理由はどうでもよくて。

 どうして彼女が執拗におっぱいを差し出してくるのかなんて理由も知ったこっちゃなくて。


 ただ、それを触るか否かの二択。

 そしてその選択はあまりにたやすい。


「失礼します」


 多分この時、俺の目はイッていたと思う。

 いやらしく彼女のおっぱいをガン見しながら、それを確実に掴まんと両の目でしっかりら捉えて離さない。


 そっと。手が伸びる。

  

 おうちの玄関にて。

 同級生のおっぱいに手が伸びる。

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る