安楽椅子探偵の系譜に連なるミステリーの中でも、ハリィ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』と言えば、取り分け名作中の名作です。ハヤカワ文庫版の表紙には、物語の舞台であるフェアフィールド界隈の地図が描かれおり、タイトル通りのキーワードに沿った推理が展開されていく中で、読み手のイメージを補助するのにひと役買っています。
それを思い返してみると「地図と何らかの断片的な手掛かりを絡めたミステリー」は、安楽椅子探偵物において非常に魅力的な謎を創出し得る、ということが察せられるのではないでしょうか。
こちらの作品は「ツキヨム楽曲化短編小説コンテスト」の応募作ですが、コンテスト課題文にあった古地図の設定を、まさに安楽椅子探偵風ミステリーのジャンルへ落とし込んだお話となっております。
複数枚の地図を照合し、そこから浮かび上がってくる手掛かりに推論を巡らせて、大きな秘密の真相へ迫る……という筋書きには、ミステリーファンのみならず冒険小説好きの読み手も胸躍ることでしょう。登場人物たちが交わすやり取りは、いくつかの「蛇」の言葉に絡めた概念から推理を発展させていき、綺麗な着地点へたどり着きます。
会話の中から次々と連想を広げていく楽しさが詰まった、とても知的な一作です。