文芸部の体験に訪れた和泉は、初めて柳川先輩と言葉をかわした。声ではなく、手話によって。一目惚れした彼女のことをもっと知りたい、物語を紡ぎたい。しかし、和泉は入部しなかった。彼には自分の感情を優先することができない、ある事情があったのだ。
冒頭の手話に、自分の知らない世界を体験させてもらっているような、不思議な感覚になりました。
主人公の和泉は優しくて頑張り屋で、真っ直ぐすぎて不器用な青年。そんなふうに思いました。自分の感情のままに動きたいけど、家庭を支えなきゃいけない。母親の頑張りを無駄にすることはできない。そのためには自分の一目惚れも、夢も、交遊関係も犠牲にするべき。そう思い込み、自分の心の声に耳をふさいで、周りの声掛けも拒絶する。葛藤の中にとじ込もって、もがくほどに雁字搦めになってしまっている青年。それはある意味、彼の持つ長所であり、『壁』でもあるのだろうと思いました。
作品を拝読しながら何度ももどかしい気持ちになりました。でも、そのもどかしさから「こうしたら良い」と「正解」だけを示すようなキャラがもし作中に登場していたとしても、彼の考えは変わらなかったでしょう。彼は自分自身の青春を通して、自ら様々なことに気づき、迷いながらも前に進んでいきます。そうした他者との関わりや心が揺れ動く体験、また、そうした過程を経て自らたどり着いた答えだからこそ、大きな意味があったのだと、そう思いました。
ドラマたっぷりの、青春を感じられる素敵な成長物語でした!
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