これは作者の遠い親戚である女性から送られて
来た一本のメールから始まった…。
日頃から破天荒な言動の彼女。旅先で病に
倒れ、と或る病院に入院しているという。
助けを求めて来た彼女の言う病院は存在せず
嫌な胸騒ぎを感じ始める。
予言ゼミ、シーボルト蚯蚓、山羊、שָׁמִיר
シェミハマ、ソロモン王、くくりく、
ゲマトリア数、弥勒菩薩、ヘブライ語、
くくりき、呪、艮の金字神、蝉、深層WEB
包帯の少女、くくらよ、羽化
目眩くも悍ましい言葉と事実の連なりは
想像もしていなかった方向へと
我々を誘う…。
ホラー作家としての作者の感性と知識と
観念を更に研ぎ澄ました 事実 の行軍は
神も悪魔も、剰え世界を巻き込みながら
進んで征く。
決して巻き込まれるな。そして、潔く
呑み込まれてしまえと ソレ は囁く。
蝉達の絶叫が、廻間に谺する。
読後にふと、考えさせられる。
小説家たる者は、常に 提言者 で
なければならない。
真理 は、深く隠されている。
本作は、山の奥にあるとある病院に入院したという遠い親戚の櫻子さんから、作者様にメールが届いたことで動き出します。
告げられた名の病院が見つからない、未来がわかるようになるという予言ゼミ、そして関わるとまぁ碌なことにならない不吉さを感じさせる不思議な言葉。
それらについて調べざるを得なくなり、そして調べていく作者様の残した痕跡を読み辿っていく中で、否応なしに積み重なっていく恐怖がやがて炙り出す悍ましい事実に、怖気が止まりませんでした。
語られる知識量は圧巻の一言ですが、重くはありません。
むしろ完全に知らない状態から読んでも面白いかもしれません。
専門用語が豊富に出てくるにも関わらず思考が止まらずワクワクが増していく状態をここまで上質に味わえるのは、きっと作者様の作品だけでしょう。
また、知識量だけでなく確かな筆力で描き出されていく、古代史にまで推理が及ぶこの作品。
読んでいるうちに常世と現世、あるいは現世と異界が重なり、混ざり、ズレて元とは違うものになるような、恐ろしくも病みつきになる感覚を味わえます。
大変上質なモキュメンタリーホラーとなっておりますので、ぜひご一読ください。
突然の連絡、
所在地がはっきりしない病院、
関わると影響が及ぶ、謎の言葉と話題。
ヒントをつなぎ合わせ炙り出されてくる、不吉な事実と不吉な名前。
こちらがあちらを知ろうとすれば、あちらもこちらの存在に気がついて手を伸ばしてくる……。
知識が楽しいです。
実際にあって、言及されていたり記述されていたりする存在が関わるのですが、この辺りはたまに見かけますが、まだまだ認知がさほどされてなくてホラーとして掘りがい、広げがいがある不気味な存在なんですよ~。
チョイスがナイスです。
うっすら知っているような、もしくは全然知らないようなものを持ってこられるのがやはり不気味で楽しいですね。
あんまり知られている存在だと、作家さんがどう調理するかの技法のみに着目が偏りますからね。それだけでも悪くはありませんが、素材も楽しめた方が読者もお得なのです。
櫻子さんのキャラも、緊張を保ちつつほどよく不気味さを緩めてくれるので、良きです。
いかにして恐怖という、本来ならば忌避される感情を読者に感じさせるか。
ホラーにおいて命題といえるでしょう。
「ドラキュラ」「フランケンシュタイン」といった古典的名作でも用いられている疑似現実的手法が、近年「モキュメンタリー・ホラー」として注目を浴びているのも、その試みの一つと言えるでしょう。
本作は、作者様ならではの豊富なオカルト知識と異界をまざまざと感じさせる筆致によって、底知れぬほどに忌まわしく、絶望的なまでに兇々しい恐怖が近づいてくる様を描きあげています。
そんな脅威がひたひたと、魂にまで迫るこの感覚。
あなたは耐えられるでしょうか……。