第42話 ケダモノの悪女
「……言ったとおりだ。妻に迎える、ということだが?」
「その女と……結婚? テメェが?」
「美しき者へは、出自は問わない
「……ああ。そういやおまえ、犬を兄弟扱いしてたんだっけか」
「ヴィスコのおしゃべりめが……。まあいい、どうせおまえはわたしの手に掛かって死ぬ。野ざらしとなる前に、せいぜい吠えるがいい」
バンがみしみしと音を立てながら拳を握り、腰を軽く落として戦闘態勢に入る。
受けてマーク、さらに腰を落とし、対照的に十指を広げて爪を伸ばした。
バンから漲る殺気が、そして母への憎しみが、マークを駆り立てる。
己の野性を全開にさせる直前、図書館暮らしで培われていた人間の理性が、最後の対話を望んだ──。
「……おい。やめるならいまだぞ」
「
「まさか。ただ、そこのクソ女はよ……。こうやって雄同士を闘わせて悦ぶ変態野郎だ。親父もそうして死んだ。どうせ『勝ったら結婚してあげる』と、そそのかされたんだろうが……。いまの俺たちゃ、アイツの
マークは目の端で、距離を置いて傍観者を決め込んでいる母を見る。
視線を受け止めた母・ジョアンナは、唇に指を添え、無言で口角を上げる。
同じく視線をジョアンナへと向けていたバンもまた口角を上げ、背広の上着を脱ぎ捨てながら返答。
「一向に構わんよ。そもそもこうして彼女を連れて歩けるようになるまで、何人もの男を叩き伏せてきたからな」
「けっ……もう手遅れかよ。狼人の野郎どもも聞く耳持ちゃあしなかったが、まさか人間まで手玉に取られるとはよぉ……」
「では、いいかげん始めていいかね?」
「もし俺が逃げだしたら? 俺のほうには、闘う理由はないんだが?」
「外にはわたしの私兵を待機させている。きみが施設を飛び出したならば、即座に銃でズドン……だ。猟銃ではなく対人用で、恐縮だがね」
「けっ……めんどくせぇ。ンじゃまあ、まずてめぇを倒してから、そっちのクソ女もボコってやるか」
二人の視線が真正面に戻り、鋼の糸で結ばれたかのように固く繋がる。
フィジカルでは人間を大きく上回る狼人の青年。
対するは、武力では人間のトップクラスに位置する屈強な男。
それらの一触即発を受けて、ジョアンナはわが身を抱き締める──。
「いい……いいわぁ。人間とわが子の、命の削り合い……奪い合い……ゾクゾクしちゃうっ!」
多感な少女のような、落ち着きのなさ。
全身をくねらせるその様は、全身の
しかしその挙動を許すほどの美貌と若々しさが、ジョアンナにはあった──。
「さあっ……始めてっ! わたしのためにっ!」
「けっ!」
ジョアンナの掛け声とともに開戦。
先に動いたのは、そんな母の態度へ忌々しさを募らせていたマーク──。
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