第13話 マオさんとエリカさん 前編

「ぱんぱかぱーん!」


 私、ニーナはついにやりました。

アスモくんもマモンちゃんもベルちゃんも、みんなが祝福してくれている……ような気がします。


 思えば、ここまで二年くらいだったかな。


 勝手にこの雑貨屋に住み着いてから、今日までずっと頑張ってきた。

雨の日も風の日も、ひどい嵐の日も。空を大きなドラゴンが悠々と飛んでいる日だって


 たくさんお店を開いて、みんなに品物を売って……そして、ようやくこの時が来たのです。


 私、ニーナの貯金がついに……ついに金貨一千枚を突破しましたー!


 わー、わー! ぱちぱちぱちぱち!


 心の中で鳴り響く拍手喝采。

目標はまだまだ高く、二千枚、三千枚といっぱい貯めるつもりだけれど、まずは大きな区切りだね。


「ということでアスモくん。この金貨二百枚を、いつもの施設に届けてね。お願い!」


 私は、ずっしりと重い袋をアスモくんに託した。


 アスモくんは荷物の配達だけじゃなくて、頼めば大事なお金だって運んでくれる。とっても便利で、良い子なのだ。


 私の言葉に、アスモくんは元気よく羽をパタパタとはためかせると、そのまま青い空へと高く飛び去っていった。


 もちろん、今アスモくんに渡した二百枚を差し引いても、手元にはちゃんと一千枚以上残っている。


 ふふん、ニーナは偉いのです。こうやって時々、お世話になった場所へ仕送りをしているんですよ。


 私はちっちゃい頃に家族がいなくなったみたいで、誰の顔も覚えていない。

でも、私を育ててくれた施設がある。だから、こうして定期的にお金を送るのだ。

やっぱり、お金は一番大事だと思う。お金がないと何もできないし、ごはんも満足に食べることもできないしね


 私は運良く、このお家を見つけることができた。家主さんはずっといないみたいだから、こっそり使わせてもらっているけれど、今の生活は本当に幸せだもん。


 大きい箱の中の入った金貨を、両手でじゃらじゃらと触りながら、私はそんなことをぼんやりと考えていた。


「おい、ニーナ。不用心にもほどがあるのじゃ!」


 背後から、ぴしゃりと叱りつけるような声が響いた。


 驚いて振り返ると、そこには綺麗な白い髪と、二本の曲がった角を持つマオさんが立っていた。


 わわわ、扉が開いた音にまったく気づかなかったみたい。金貨の音に夢中になりすぎていた。


「い、いらっしゃいませー!」


 私は慌てて金貨を手で隠すようにしながら、背筋を伸ばして挨拶をした。


「うむ、いらっしゃいしたぞ。いいか、魔族でも人間でも、悪いやつというのはどこにでもおるのじゃ。そんなふうに無造作に金貨を広げたり、大事なものを扱ったりするときは、ちゃんと鍵を閉めてからするのじゃ」


 マオさんは腕を組んで、呆れたように、でも心配そうにそう言ってくれた。


「はい、すみません。次からはちゃんと気をつけます」


 私はしゅんと素直に謝ると、カウンターに広げていた金貨をずっしりと重い収納箱へと収めた。カチリ、と鍵が閉まった音を確認してから、改めてマオさんに向き直った。


「今日はどうしたんですか?」


 最近のマオさんは本当によくお店に来てくれる。でも、この前あれだけ買っていったデンチは、まだ切れていないはずなんだけどなあ。


「ニーナ、余はやったぞ! ついにこの『ピコピコ』を制覇したんじゃ。ほれ、見てみるがよい。余が丹精込めて育て上げた勇者たちをのう!」


 マオさんは鼻息荒くそう言うと、誇らしげにピコピコの光っている平らな部分をぐいっと私に突き出してきた。

 そこをのぞき込んでみたけれど、やっぱり私にはさっぱり分からない。四角い光の中に、小さな絵や記号がごちゃごちゃと並んでいるだけだ。


 でも、彼女の満足げな顔を見れば、きっとすごいことをやり遂げたんだろうなというのは伝わってくる。


「わあ、すごいです! ぱちぱちぱちぱち!」


 私は精一杯、両手で拍手をした。


「おめでとうございます! どうでした? 楽しかったですか? 面白かったですか?」


 身を乗り出して尋ねる私に、マオさんはさらに得意げな顔になった。


「うむ、最高じゃったわい。作り話ではあるが、実に良い物語じゃった。手に汗にぎる熱い戦いもあったし、ただ戦うだけでなく、寄り道なんかもできたりしてのう」


 マオさんは感極まった様子で、そっと目をつぶりながら思い出に浸っている。


「実に良いものを教えてくれたのじゃ、ニーナ。さんきゅーじゃ。このピコピコを返――」


 マオさんが名残惜しそうにピコピコを差し出そうとした、その瞬間。私は商売人としての本領を発揮した。


「実はマオさん。このピコピコなんですけど……種類はこれだけじゃないんですよ?」


 私はカウンターの下から、あらかじめ用意しておいた「小さな板」をいくつか取り出した。それらには、それぞれ違う絵柄が描かれている。


「……なん……じゃと……?」


 並べられた色とりどりの板を前にして、マオさんは目を見開いたまま固まってしまった。


 マオさんは、並べられた色とりどりの小さな板を、食い入るように見つめている。


「そうなんです、マオさん。この板を差し替えることで、まったく別の『ピコピコ』が遊べるようになるんですよ! 私は中身のことはさっぱりですけど、マオさんならきっと分かりますよね」


 私はそう言って、数枚の板をマオさんに手渡した。マオさんは、まるで宝物を手にした子供みたいに、わくわくした目で私を見ている。


「ええ、大丈夫ですよ、マオさん。この板も、無料で貸し出してあげますからね」


 私がそう告げると、マオさんの顔がぱあっと明るくなった。


「ありがとうなのじゃ、ニーナ! 余は『ピコピコ』の完全制覇を目指すのじゃ。くふふ、待っておれ、新しき冒険よ!」


 二人でそんな話をしていた、その時だった。

扉が開いて、誰かが店に入ってきた。


「ありゃ? 先客がいたんだ。こんにちは、ニーナちゃん。おにぎり入荷してるかな?この前言った通り買いにきたよ」


 のんきな声とともに現れたのは、勇者のエリカさんだった。

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