第14話「ステップアップ」
支部長とパメラさんの顔色が変わる。
支部長は急いで声が聞こえた二階へと上がっていく。
「あわわ」
ラタが出来事についていけなくてうろたえていた。
「ど、どうやらアンデッドが建物の中に入り込んでいたみたいです」
とキーラが俺の腕にそっと触れながら言ってくる。
「そういうことか」
まさかとは思ったけど、ほかに考えようがないもんね。
「しかし気づかなかったな。キーラは?」
死霊系魔法使いなら、死霊にはある程度敏感だと思ったのだが。
「ご、ごめんなさい」
キーラは責任を感じた様子で、謝りながらうつむいてしまう。
「いや、あなたを責める気はない。ただ、状況を知りたいんだ」
俺は安心させるために、意識して優しく声をかける。
「え、えっと……わたしが感知できない死霊となると、ファントムだと思います」
キーラはすこし考えてから口を開いた。
「し、死霊っていろいろといるんですね」
アロンが感心する。
「有名どころはゴーストかスペクターなんですけど、離れていてもわたしは感知できるので」
キーラの言葉に俺はうなずく。
「これは問題ですよ……」
パメラさんがため息をついた。
そりゃどういう形であれ、死霊が入り込んでいたんだからね。
支部長がまだ降りてこない。
「とりあえずドラゴンゾンビに関しては信じてもらえましたか?」
仕方がないので俺は本題に戻してみる。
空気を読んでない?
そうだね。
「はい。疑ったのが恥ずかしくなるくらいでしたね」
パメラさんはいつものきれいな笑みを浮かべる。
「支払いは支部長が戻ってからになりますが、ドラゴンゾンビのコアの買い取り価格は五千万デナリになります」
パメラさんの言葉に、
「ご、ごせ!?」
三人娘たちから驚愕の言葉があがった。
俺としては妥当な額だと思うけどね。
上級冒険者が受け取る報酬から推測すれば。
「問題ないですか?」
パメラさんが俺を見る。
「はい。支払いは金貨ですか?」
「もちろんです」
パメラさんはうなずく。
金貨の上に白金貨というものがあるんだけど、ここでは出て来なかったか。
渋い顔をした支部長が降りて来る。
「状況から推測すると、副部長と管理部長のふたりが憑かれていたらしい」
「まあ」
パメラさんが愕然とした。
部長と部長でややこしいけど、響き的にどっちも大物っぽい。
「ふたりともここしばらくの記憶がいっさいないそうだ」
支部長の言葉にパメラさんの表情がくもる。
俺も思わずキーラ、ラタ、アロンと顔を見合わせた。
もしかしてこれ、とんでもない不祥事になり得るのでは?
「突然ドラゴンゾンビがこの辺に現れた説明ができてしまいそうだ。まだ詳細はわかってないんだが」
支部長は言ってからパメラさんを見る。
「報酬に関しては説明済みです」
パメラさんは察して即答した。
「そうか。支払いは金貨になる。あと、何か有望そうな情報をつかんだら教えてくれ。もちろん情報提供料を払う」
支部長の言葉に俺たちはうなずく。
「今回の件に黒幕がいるとしたら、俺たちには近づかないかもですけど」
と一応俺は言ってみた。
だってアンデッドの天敵みたいな構成になってるんだよ?
こわいとしたら知能と魔力が高く、たくさんの魔法を自由に使い分けて来るリッチくらいだろう。
その強大さゆえにアンデッド最強クラスと言われるほど。
「普通はそうだが、普通は冒険者支部をわざわざ狙わないからな」
と支部長に言われて、なるほどと思う。
たしかに冒険者支部は猛者が出入りしている。
ラキーザは小さめの都市とは言っても、大都市ラヴェンドの近くにあるのだから、上級冒険者がふらっと立ち寄ってもおかしくない。
狙うならほかの場所のほうがいいだろう。
「『普通の考え方』に自信を持つのは危険かもしれないですね」
と俺は答える。
「まあ無茶な話だけどな。俺たちじゃあ思いつかないことをやってくる奴らの動きを想定するなんてよ」
支部長の言葉はもっともすぎて、俺たちはみんなうなずいた。
それが簡単にできるなら、犯罪者たちの取り締まりがもっとはかどっているだろう。
「あと次になんだが、お前たちのギルド名は『
「はい」
支部長の確認に首を縦に振る。
「『
一瞬支部長が何を言ったのか理解できなかった。
「……おお。ありがとうございます」
三級ギルドになれば中堅の仲間入りである。
まさかこんなにも早く到達してしまうなんて。
ギルドの設立を思いついたときには、想像もしなかった。
「尋常じゃない速さですが、グレックさんたちの実績なら納得です」
パメラさんは微笑む。
「二日か三日くらいか? 俺の把握しているかぎり、王国の冒険者ギルドの中でも一、二を争う速さだろうな」
支部長が顎を撫でながら話す。
そりゃどんなすごい英雄は最初は駆け出しだし、ランクアップに必要な敵と遭遇するかは運次第だもんね。
「それを考えると俺たちって、運はあんまりよくない気がする」
ウィルオウィスプと遭遇して次にドラゴンゾンビなんて、物語に出て来る英雄譚でも前例がない。
つぶやきが聞こえたらしいラタには苦笑された。
「報酬と実績的には拠点をあっせんしたいところだが」
支部長は言葉を区切ってから、残念そうな顔になる。
「上級ギルドを目指すなら、もっと大きな都市に移るほうがいい。集まる依頼の数と種類が違うからな」
「当然のことです」
パメラさんは割り切った様子で肯定した。
「うーん、どうする?」
俺は仲間たちの意見を聞いてみる。
中堅ギルドは凡人たちの到達点、なんて言われたりするからだ。
三級で田舎じゃあ自慢できるし、四級ならラキーザ規模の都市では最高峰だろう。
つまり、「もっと上」を目指すかどうかの分かれ道になるラインなのだ。
「え、えっと……」
三人は俺の目を見て口ごもってしまう。
確実に遠慮されているね。
「みんなのいまの気持ちを率直に聞きたいだけだよ。べつにいますぐ方針を決定したいわけじゃない」
と俺は告げる。
「えっと……わたしはここでいいと思います」
最初に話してくれたのはラタだった。
「なぜならわたしたちはまだ四人だけだからです。もうすこし増やしてもいいのでは?」
彼女が言う理由に俺は納得する。
「えっと、あっしもここでいいと思います」
次のアロンもラタと同じ考えだと告げた。
「さ、三級より上を目指すのは大変と聞きますし、地道にコツコツやるのがいいんじゃないかなって」
まだまだ自信がなさそうにしているアロンらしい、と俺は思う。
最後になったキーラに目を移す。
「え、ええと、ここから移ってもいいんじゃないでしょうか?」
キーラの発言にアロンとラタが驚きの視線を向ける。
「人口の問題があるので……新しく人を増やすなら、大きめの都市のほうが探しやすいんじゃないかなって」
キーラはおどおどとしながらも言い切った。
そしてこっちをチラチラ見ている。
「なるほどね」
キーラの考えは一理あった。
なんだかんだ言って「人を増やす」場合、大都市のほうが有利なのは事実である。
「とりあえずここで人を募集してみて、上手くいきそうになかった場合は、よそへ移ることを考えるのはどうだろうか?」
俺が出したのは折衷案だ。
上級ギルドを目指すのは急いでいないが、人を増やすのはできれば早いほうがうれしい。
とくにそろそろ男の仲間が欲しいからだ。
「さ、賛成です」
とアロンが言う。
「人が来ないと困りますしね」
ラタも賛成に回る。
キーラもホッとした様子だった。
ひとまず話は決まったかな。
「というわけになりました」
俺はパメラさんと支部長に向き直って告げる。
「わざわざ目の前でやってくれてありがとうよ」
支部長が笑いをかみ殺しながら答えた。
意図が伝わったようで何よりである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます