第6話「大樹の芽吹きの初仕事」

「冒険者ギルド設立の申請ですね」


 受付の美人のお姉さんは慣れた様子で手続きをしてくれた。


「俺たちでもこなせそうなちょうどいい依頼はありますか?」


 手続きが終わったタイミングを見計らって質問してみる。


「薬草摘みと下水道のネズミ退治がありますね」


 受付のお姉さんはさらっと答えてくれた。

 どちらも駆け出し向けの依頼である。


 俺たちを初心者同然と判断した受付のお姉さんは正しいと思う。


「どっちがいい?」


 俺はふり向いて後ろのふたりに意見を求める。


「げ、下水道ならわたしが魔法を使っても大丈夫なはずです」


 キーラは自分の顔を指さしながらアピールしてきた。


 たしかに下水道は人目がつきにくいし、ネズミ退治に死霊を呼んでも文句は言われない。


「あっしはどちらでも役に立たない気が」

 

 アロンはシュンとしてしまう。


「俺たちを守る前衛として来てくれ」


 と俺は彼女に声をかける。


「ですよ。わたしは貧弱な魔法使いですし、グレックさんもね?」


 キーラに確認されたのでうなずいておく。


 戦士としては最低限の護身はできる程度なので、専門職の戦士にはいてほしいところだ。


「わかりました。盾役をがんばります」


 アロンは何とか自信を取り戻す。

 

「前衛一、後衛二ですか? バランスが悪いですね」


 受付のお姉さんに正論で指摘されてしまった。


「そうなんですよね。できれば斥候職ひとりと神官がほしいのですが、心当たりはありませんか?」


 俺はいいきっかけだと思って相談してみる。


 冒険者協会に加盟するメリットのひとつは、こうやって仲間に関して相談できることだ。


 もちろん必ずマッチングできるわけじゃないが、可能性があるというだけでもありがたい。


 新規の零細ギルドはとくに。


「いまはないですね。特に神官は難しいと思いますよ」


 受付のお姉さんは表情を動かさず即答する。


「やっぱり」


 知ってたとため息をつく。 

 神官とは神に仕えて傷を癒したり、浄化の力を持った人たちのことだ。


 冒険するうえで彼らがいないのは自殺行為と言われるほどで、引く手あまたである。


 俺だってできるなら神官は最初に確保しておきたいよ。


 ロレントに追い出されたときは普通に就職するつもりだった。

 だからで誰にも声をかけなかったんだけど、それがよくなかったのかもしれない。


 あの人たち以外に俺は神官へのツテなんて持っていないので。


「とりあえず薬草摘みと下水道のネズミ退治と両方やります」


 指定された内容を読むかぎり、ふたつ同時にやっても一日で終えることができるだろう。

 

「大丈夫ですか?」


 キーラがおどおどと訊いて来る。


「うん。それに薬草摘みのほうは、持ってきた薬草の種類と数で報酬を上乗せしてもらえるらしい。これはありがたい」


 俺は理由を話す。

 青い癒し草を五本で一万デナリが最低ライン。


「なるほど」


「報酬の上乗せはうれしいです」


 キーラとアロンもちょっと微笑む。

 ひとりなら一万デナリでもいいけど、三人だと儲けが出ないからね。


「まずは下水道に行こう」


 と提案すると、


「? 匂いは大丈夫ですか?」


 キーラが首をかしげて心配そうな表情になる。

 女子的にはとくに気になるポイントだろうね。


「ああ、俺は匂い消しの魔法を使えるから平気だよ」


 と説明しておく。


「支援魔法。とても便利」 


 キーラは納得し、アロンは何か羨ましそうな目でこっちを見て来た。


「便利だけど器用貧乏になりがちで、周囲の力が必要なんだよね」


 答えながら肩をすくめる。


 じゃなかったらひとりで冒険者として名をあげてから、人材を募集するという方法を使えた。


 俺たちは下水道の入り口を探して進入し、中型犬サイズの大ネズミを五匹ほど退治する。


 と言っても俺やアロンの出番はなく、


「楽だね」


「楽ですね」


 短いやりとりをした。


 死霊系魔法を遠慮なく使えるなら、キーラが大ネズミ相手に後れをとるはずがない。


 死霊系魔法は使い手次第でいくらでも強力になるのだ。

 

「グレックさん、どれくらいやるんですか?」


 視界に入った大ネズミを全滅させたあと、キーラがこっちを見る。


「こういうのは奥まで行かなくていいんだよ。これで引き上げよう」


 俺は答えた。


 依頼内容は「奥まで行って殲滅」じゃなくて「増えた大ネズミの間引き」だからね。


 殲滅は難しいし、初心者向けの依頼を減らすわけにもいかないというところだろう。


「! グレックさん」


 出入り口に向かおうとした瞬間、キーラがハッとする。

 

「ああ。俺も気づいた。支援魔法の中には警戒用があるので」


 理由を話すと、


「わたしは死霊ちゃんが教えてくれました」


 キーラも説明しながら自分の肩を指さす。

 

「感知能力もあるのか……」


 死霊魔法は想定よりも便利かもしれない。

 あるいはキーラがレアなのか。


「奥から敵が来る。アロン、警戒してくれ」


「はい」


 ふしぎそうにしていたアロンの表情が、俺の指示で引き締まって斧をかまえる。

 大した敵はいないと思いたいけど、何かいやな予感がしていた。


 不気味な足音とともに現れたのは、アロンと変わらないサイズのデカいネズミだった。


 ただし両目からは青白い火を放ち、尻尾も青白い火をまとっている。


「ウィルオウィスプ……」


 キーラの口からその名前が告げられた。


「そいつって、実態のない死霊モンスターだと思ってたんだけど」


 俺は自分より詳しいだろうキーラに問いかける。


「お、おそらく憑依され、自我を奪われたんだと思います。わたしの死霊魔法で刺激されたんでしょう」


 キーラは申し訳なさそうな顔で言った。


「都市の地下にこんなのがいるって普通は思いつかない。気にしなくていい」


 俺は彼女をフォローする。

 どちらかと言えば依頼主の調査力のほうを問題にするケースだ。


「キーラなら死霊魔法で調伏できたりする?」


 とアロンが問いかける。

 実は俺もひそかに期待していた点だ。


「わたし、そういうのは苦手で。追い出された理由のひとつなんですけど」


 キーラは恥ずかしそうにうつむいてしまう。


「ご、ごめん」


 俺とアロンはふたりで謝った。


 「死霊魔法の使い手なのに、野良死霊を制御できないの?」というのは、訊いてはいけない部分らしい。


 一応注意しているが、巨大ネズミに憑依したウィルオウィスプは襲って来ない。

 どうやらキーラを警戒しているようだ。


「倒すのはできる?」


 俺がごまかす意味も込めて問いかけると、


「は、はい。ウィルオウィスプは大した死霊じゃないので」


 キーラはこくりとうなずく。


「悪いけど倒してくれる?」


 俺の指示に彼女は「はい」と返事して、瞬殺してしまった。


「はや」


「見た目はけっこうグロかったのに」


 俺とアロンはポカンとする。


「あれくらいなら、力関係的にわたしのほうが圧倒的有利なので」


 キーラは照れくさそうに説明した。

 巨大ネズミの体から青白い結晶のような石が転がってくる。


 キーラはそれを素手で拾って、


「ウィルオウィスプを倒した証ですよ」


 ちょっとうれしそうに俺に見せてきた。


「キーラが持っていてくれ。協会に説明する際に必要かも」


 扱いに慣れてそうなので頼んでおく。

 キーラもそのつもりだったらしくて二つ返事で承知した。


「お疲れさん」


 下水道の出入り口に行き、管理人である男性に声をかけられる。

 この人の確認のあとで報酬を受け取れる仕組みだ。


「冒険者協会に連絡入れておくよ。お前さんたちは初心者って感じがまったくしないな」


 管理人の言葉に俺たちは互いに顔を見合わせ、微苦笑する。


 俺たちは元のギルドを追放された訳アリばかりだから、初心者に見えなくても何もおかしくない。


「何? 巨大ネズミ? 死霊系モンスター?」


 管理人はまったく把握してなかったらしく、顔色を変える。


「わかった。こっちで調べて報告する」


 実直そうな人なので、とりあえず信じてみよう。


 下水道の深部は異変を感じないかぎり調査しないのは、どこの都市だって同じはずだしね。

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