第29話「突然だがワイバーンだ」

「──エミネンス」

 

 俺の支援魔法で、コボルトたちの意識をムルトゥマへと集中させる。


「す、すごい」


 ムルトゥマは驚きながらもみんなの盾になっていた。


「た、戦いやすいです」


 キーラは称賛しながらゴーストたちを召喚して、コボルトたちに大打撃を与える。

 ほんと耐性を持ってない相手にはめっぽう強い魔法だよ。


 素材を集めたところで、


「うーん。コボルトの生息地とこの地域がかみ合わない気がしますね」


 とアロンがふしぎそうに言った。


「俺もそう思う」


 同感だったので賛成する。

 メランさんは気づいてそうな気配があったね。




 というわけで、戻ってきたので報告する。


「やはりでしたか」


 メランさんには驚きはなかった。


「うすうす察してはいたんですね?」

 

 俺の問いかけに彼女はうなずく。


「コボルトの生息地域とされる場所とかみ合わないとは思っていました。ただ、その地域の環境が変化しただけという可能性もありますから」


 現場を見てみないと判断できない、というメランさんの言葉はもっともだと思う。

 

「ストームウルフが現れたのと同じ理由だったかもですね」


 可能性はかなりありそうだと俺は判断した。


「その件ですが、ワイバーンの目撃情報が入ってきました」


 メランさんの言葉に仲間たちが息をのむ。

 

 ワイバーンとは翼を持ち空を飛べる飛竜種だ。

 竜の中でも機動力が売りだとされている。


「ワイバーンが出たなら、ストームウルフやコボルトは逃げ惑ってもおかしくないですね」


 俺は納得した。

 ストームウルフの風の力も牙も爪も、ワイバーンには通用しない。


 戦いを挑んでも返り討ちにされ、食べられるのが関の山だろう。

 コボルトなんてストームウルフよりずっと弱いのでお察しだった。


「問題はワイバーンがどこに向かうかなんですけど」


 探りを入れてみると、メランさんにじーっと見つめられる。


「グレックさんは落ち着いていらっしゃいますね?」


 ふしぎに思われたのだろうか。


「ワイバーンなら、以前所属したギルドで遭遇したことがあります」


 正直に告白する。

 と言ってもべつに大したことじゃない。

 

 そんなに強くない個体だったこともあって、レナータがひとりでボコボコにして、ステーキにしていたからね。


 ステーキを焼いたのは俺だけど。


「なるほど。『天翔ける翼獅子グリフォン』には、ワイバーンを倒せる猛者がいたのですね」


 メランさんはすんなりと納得してくれた。

 レナータはたぶん有名だろうしね、いろんな意味で。


「こんな大きな都市にならいるのでは?」


 俺は疑いもせずに言った。

 ワイバーンは強敵だが、五級冒険者がいれば勝てるだろう。


 そして五級冒険者は大都市にはいると相場が決まっている。


「ええ。戦力的に不安はありません。むしろまっすぐにここに向かってきてもらえると助かります。周囲の被害が減る意味で」


 メランさんは自信ありそうに答えた。

 だよねー。


 大都市なら、それこそドラゴンでも来ないかぎりは大丈夫だろう。


「大都市に来ていてよかったかも」


 アロンが気弱なことを言うが、気持ちは理解できる。

 都市の規模と防衛戦力はおおむね比例するからだ。


 税金や生活コストが高いのは伊達じゃないってことだね。


「俺たちの出番はないだろうね」


 相手がワイバーンなら、対空攻撃手段を持ってる人たちのほうがいい。

 

「油断は禁物ですが、冒険者に声掛けはすでにおこなわれています」


 メランさんが言う。


「さすがの手際ですね」


 感心すると、


「仕事ですから」


 メランさんは微笑む。

 ちょっと得意そうなところが可愛らしい。

 

 年上の女性だけど。


「じゃあわたしたちは、ワイバーンが倒されるまでは待機でしょうか?」


 ラタが首をかしげる。


「そのほうがいいだろうね。周囲に影響が出ないわけじゃないだろうし」


 生活に困ってるわけじゃないので、無難な選択をしてかまわないだろう。


「そうですね」


 ムルトゥマだけは仕方なさそうだった。

 俺たちが外に出たら、入れ違いで十五人ほどの冒険者が中に入っていく。


「あの人たち、強そうですね」


 とアロンが言う。


「雰囲気的には四級か五級だろうね」


 俺は応じる。

 

「わかるんですか?」


 ラタやムルトゥマは驚いた顔をしてこっちを見た。


「何となくだね。精度はそこまで高くないから、参考程度にしてほしい」


 俺は苦笑する。

 精度を高めるためには鑑定が不可欠だった。


「でも、わからないよりはずっといいじゃないですか?」


 ムルトゥマがそう言って、


「す、すごいです」


 キーラはストレートに褒めてくれる。

 この感じ、何だか新鮮だね。


「ワイバーンが倒されるまで、数日は節約したいと思う」


 俺は宣言した。


「仕方ないですね。この都市は物価が高いですし」


 ラタはすぐ賛成する。


「しめるタイミングでしめたほうがいいです」


 キーラも同意した。


「数日で終わるでしょうしね」


 アロンもムルトゥマも異論はないみたいだ。

 物分かりがいいメンバーしかいないって、すごく楽でやりやすいんだね。



 三日後。

 そろそろ新しい情報が入っているだろうと、協会支部に顔を出しに行く。


「ちょうどよかったです、みなさん!」


 珍しくメランさんはすこし早口で、表情は切迫している。


「ワイバーンの討伐部隊が敗れました! 目標はここへ接近しています!」


「……はあ?」


 一瞬メランさんが何を言ったのか呑み込めなかった。

 敗れた? 討伐部隊が?


「どういうメンバーだったんですか?」


 信じられない気持ちをねじ伏せ、俺は質問を放つ。


「四級のヒーラー三名。五級の魔法使い四名。四級の戦士三名。五級の戦士が五名。雑な分類はこうです」

 

 メランさんの答えを聞いたら、余計に信じられなかった。


「ワイバーン相手に負けるとは思えませんね。情報分析にミスがあったのでは?」


 俺の疑問にメランさんは目を閉じて、


「正確に言えば甘かったのです。たしかにワイバーンでしたが、変異種です。まったくべつの強さを得た存在だったそうです」


 と話す。


「変異種?」


 ムルトゥマの声が背後で聞こえた。


「理由はわかってないが、本来の種とはべつの能力や戦闘力を手にした存在だ。どれくらい変化しているのか、戦ってみないとわからない点も厄介だ」


 俺の説明にメランさんが大きくうなずく。


「今回の情報からして最低でも青銅級の力が必要と判断されました」


「いきなりはね上がったんですね」


 メランさんの言葉に舌打ちしたくなる。

 青銅級より上はたしかに強いんだけど、その分数はすくない。

 

 レナータのやつ、どこにいるんだろう?


「目標個体は『緋翼竜エカルネウス』と命名されました」


 メランさんのこの言葉にみんなぎょっとした。


「識別名がつけられるってことは、本物の強さですね」


 同時に本当にやばい状況だなと俺は認識する。


「討伐部隊の情報的に、『緋翼竜エカルネウス』は緋色の鱗を持ち、ワイバーンよりも速く飛び回り、鱗も硬くてブレスの威力も上だそうです」


「通常のワイバーンよりそんなに強かったら、それはもうドラゴンでは?」


 俺は思わず言った。

 メランさんはため息をついてうなずく。


「実際に討伐部隊は、高速戦闘を得意とするドラゴンと戦ったみたいだ、と証言しているそうです」


 メランの発言に俺もため息をつきたくなった。


「レナータ、こっちに来ないかな」


 レナータがいればそれだけで互角には持ち込めるだろう。

 ああ見えて高速戦闘は得意な部類だし。


「レナータ? 『天翔ける翼獅子グリフォン』に所属していた、『厄災のレナータ』でしょうか?」


 メランさんが食いついてくる。

 さすが有名だなあと感心しながらうなずく。


「彼女はトラブルが多いので、中央から遠ざけられたという話ですが?」


 メランさんは困惑しながら言った。


「マジですか」


 知らないところでまたやらかしたのか、あいつ。

 それともよく出入り禁止程度ですんだなって感心するべきか?


「レナータなしだとどうなるんですか?」


 いやな予感がしたので訊いてみる。


「青銅級以上となれば、運悪く近隣に滞在しておらず」


 メランさんの表情がくもった。

 やっぱりそうだったか。


「『大樹の芽吹きイルミンスール』のみなさんには時間稼ぎをお願いしたく思います」


 メランさんは俺を見ながら告げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る