第6話 魔導書、家計簿
魔法使いエルザは、静かに家計簿を開いた。その瞬間、部屋の空気がぴんと張り詰める。勇者は本能的に嫌な予感を覚えた。
「勇者様」
「な、なんだ」
「今月の食費、オーバーしています」
低く告げられた事実に、勇者は反射的に剣を構えた。
「敵か!?」
「いいえ、レシートです」
机に叩きつけられる分厚い紙束。コンビニ、深夜、揚げ物の文字列が整然と並ぶ。
「この『ついで買い三連撃』覚えがありますね」
「必殺技だ!」
「無駄です」
即答だった。エルザはため息交じりに指を鳴らす。
「節約魔法・固定費削減」
魔力が走り、照明がLEDに変わり、登録していたサブスクが三つ静かに消滅する。ついでに通信費の契約まで最適化された。
「何が起きた!?」
「整理です。無駄の可視化とも言います」
横で見ていたアナザンが肩を震わせる。
「魔王軍でもここまでしない……」
「次」
エルザは容赦しない。家計簿のページがめくれ、数字が冷たく並ぶ。
「衝動買い、禁呪指定」
勇者の手が棚のお菓子に伸びた瞬間、家計簿が淡く光った。
「うわあああ!」
「ポイント還元、二倍取りです。買うなら計画的に」
数分後、会計は終了する。表示された支払額は、勇者の予想の半分だった。節約の現実に、勇者はその場に崩れ落ちる。
「勝てない……」
「生活は、負けない事です。継続が最強ですから」
きっぱりと言い切るエルザを前に、その日、勇者パーティーは理解した。この世界で最も抗い難い存在を。
この世界のラスボスは、魔王ではない。
エルザと家計簿だ。
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