第8話『合わせ鏡の階段』

放課後の旧校舎。


西棟の非常階段。


そこには噂がある。


夜、踊り場の鏡同士を向かい合わせにすると

“もう一人の自分”が現れる。


そして入れ替わる。


それが六つ目の七不思議。



レイナは一人で階段を上っていた。


手にはメリケンサック。


すでに準備完了。


踊り場には

誰かが用意した鏡が二枚。


向かい合わせ。


「準備いいじゃん」


明らかに誰かが仕込んでいる。


レイナは舌打ち。


そのとき――


バタバタと足音。


ミウが駆けてくる。


なぜかびしょ濡れ。


髪から水滴が落ちている。


「レイナちゃーん!」


「……何してんだよ」


「階段で転んだ!」


「ドジすぎ」


レイナはため息。


「風邪ひくぞ」


「えへへ」


緊張感ゼロ。


だが次の瞬間――


鏡が揺れる。


ミウの姿が

鏡の中でズレた。


ワンテンポ遅れる。


レイナは即座に前に出る。


「下がれミウ」


鏡の中のミウが笑った。


本物は笑っていない。


『代わって』


『そっちがいい』


『温かいから』


鏡の中から

黒い手が伸びる。


レイナは真正面から拳を叩き込む。


ゴッ!!


鏡がひび割れる。


だが割れない。


普通の霊じゃない。


鏡面が波打つ。


そこから

“レイナそっくりの顔”が現れる。


無表情。


『お前が器』


『もうすぐ完成』


レイナ:

「知らねえよ」


もう一発。


霊力を込めて殴る。


ゴッ!!


今度は砕けた。


鏡が粉々に割れる。


同時に怪異は消滅。



その瞬間――


強烈な記憶が流れ込む。


神社。


結界。


中央に立つ母。


若い頃の姿。


周囲の霊を一人で抑え込んでいる。


誰かが叫ぶ。


『封じきれない!』


母の声。


『なら私が器になる』


映像が途切れる。



レイナは顔をしかめる。


「……器ってなんだよ」


ミウ:

「終わった?」


「終わり」


だが空気が重い。


校舎の窓に

神代の姿が一瞬映る。


口の動きだけ見える。


『あと一つ』



その夜。


黒瀬家。


レイナが帰宅すると

家の空気が違った。


重い。


嫌な圧。


父が焦った顔で来る。


「レイナ…!」


「なに」


「母さんの部屋が…」


廊下の奥。


母の部屋の扉。


いつもは閉ざされている結界札が

黒く変色している。


内側から

ドン、と音。


レイナの目が細くなる。


「……は?」


もう一度。


ドン。


何かが

内側から押している。


父は青ざめる。


「こんなの初めてだ…」


レイナは扉の前に立つ。


中から気配。


母のもの。


でも、それだけじゃない。


別の何かが混じっている。


低い声が漏れる。


『まだ……だめ……』


母の声だった。


レイナは拳を握る。


「……あと一つってか」


七不思議最後の一つ。


全部繋がっている。


確信に変わる。



家の外。


電柱の影で

神代が空を見上げていた。


『器が目覚める』


『もうすぐだ』

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