第2話 @ライブ会場では、聖剣よりもペンライトを振れ

 ライブ会場――そこは、神聖にして不可侵、魂の洗濯場。

 聖女・音明は、神殿の法衣を脱ぎ捨て、今日のために新調した「いと様・全面プリントTシャツ」に身を包んでいた。

「……ふふ、ふふふ。今日の画角は最高。私のこの『光の御手(ペンライト二刀流)』が、いと様の瞳に届くはず……!」

 普段の清楚な「清気 音明」はどこへやら。頭には「純萌」と書かれたハチマキを巻き、腰には予備の電池をフル装備している。

 と、その時。

 隣の席に、とてつもない威圧感を持つ男が座った。

(……何この人。殺気……じゃなくて、凄まじい『推しへの覇気』を感じるわ)

 そこにいたのは、スーツをパツパツに弾けさせた大男、田中 太郎だった。

 彼は無言で、カバンから紫色のペンライトを二本取り出すと、まるで真剣を抜くかのような所作で構えた。

「……隣の嬢ちゃん。いと様のライブは初めてか?」

「えっ、あ、いえ、全通してますけど……」

「そうか。……邪魔はせん。だが、俺の『浪漫(オタ芸)』に巻き込まれるなよ」

 開演のブザーが鳴り響く。

 ステージに純萌 愛(いと)が現れた瞬間、会場のボルテージはマックスに達した。

「いと様あああああ!!」

 叫んだのは、隣の田中太郎だった。

 彼は巨体を揺らし、紫色のペンライトで、風を切るような鋭い『マトリックス・ロマンス(オタ芸)』を刻み始めた。

 そのキレ、その速度。

 間違いなく、ただの人間ではない。

(……この動き、どこかで見たことが……。……あ、あの時の魔王の剣筋に似てる!?)

 音明も負けてはいられない。

 彼女は聖女の魔力を無意識にペンライトに流し込み、まばゆい光の残像を描き出す。

「いと様は私の光! 全人類の希望!!」

 二人のペンライトが、空中で激しく交差する。

 それはさながら、戦場での殺し合いを再現したかのような、完璧なコンビネーション。

「ほう……嬢ちゃん、やるな。俺のテンポにここまでついてこれる奴は、魔界……いや、田舎の親戚以外に初めてだ」

「あなたこそ、そのガチ恋口上の声量……聖なる鐘の音より響いてるわよ!」

 二人は互いの顔をまじまじと見つめ合った。

 ライブの熱狂と、暗闇の照明。

 汗だくのハチマキ姿と、スーツのボタンが飛んだ変質者一歩手前の大男。

「「……あ」」

 その瞬間、二人の脳裏に、あの荒野での最終決戦がフラッシュバックした。

((……嘘でしょ、こいつがあの時の――!?))

 だが、次の瞬間、ステージの「いと様」が客席に向かってウィンクを放った。

「「いと様ああああああ(尊死)!!」」

 正体バレの危機よりも、推しの可愛さが勝った。

 二人は同時に絶叫し、そのまま意識を失うように椅子になだれ込んだ。

 友情が、あるいは破滅への序曲が、ペンライトの光と共に爆発した夜だった。

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