第46話 自分の騎竜は入浴中であります
ドラガイア生活15日目、今日は竜神神社の郵便ポストに手紙が入っていなかったから、ユノが竜脈を通じて行き先を決める。
「ここの南に町があるみたい。微かだけど、竜脈の力を感じるの」
「それじゃ、次に行くのはそこだな。ナギ、今日も頼むよ」
「は~い」
優月とユノはドラゴン形態のナギの背中に乗り、竜神神社から南下した。
織田原以西のエリアは、竜神神社以外に足を運んだことがないから、優月達にとって新鮮な感覚である。
もっとも、そんな感覚はコボルドの大群に包囲されている町を見れば、すぐに吹き飛んでしまうのだが。
「コボルドの大群か。俺も降りて戦うわ」
「背中は任せて」
「頼りにしてる」
「私もいるよ~」
コボルドは犬頭の亜人型モンスターで、ゴブリンに比べて素早く動く。
優月が地上で戦うと言えば、ユノはその意思を尊重したうえで背中は任せてほしいと告げ、ナギも自分のことを忘れては困るとアピールした。
まずは、着陸できる場所を用意するため、ナギが【
それと同時にヘイトをたっぷり稼いだから、コボルドの群れが押し寄せる。
「そんなにみっちり来ないでくれよ。難易度が下がっちゃうだろ?」
キログラムの刃を伸ばし、優月は薙ぎ払いでコボルドの群れをまとめて狩る。
みっちりと密集した状態で来れば、数の暴力として少数派の敵を包囲殲滅できるかもしれないが、1対多数の攻撃ができる者にとっては鴨が葱を背負って来るようなものだ。
優月の攻撃に怯み、生き残ったコボルド達の接近が止まれば、今度は優月がキログラムを構えて斬り込む。
両サイドから回り込もうとしても、ユノが【
10分もしない内に、町を包囲していたコボルドの大群を掃討し、戦利品回収を済ませた優月達は町の門に近づいた。
竜騎士の姿が見当たらないが、防壁の上に見張りを見つけて優月は声をかける。
「俺はソフィア様の使徒だ。門を開けてくれ」
左手の甲に浮かび上がった竜神の使徒の紋章を見れば、すぐに門番は開門する。
「かしこまりました! 開門せよ! 竜神様の使徒がいらっしゃったぞ!」
「「開門!」」
門の裏側にも人がいたようで、優月達を町の中に入れるように動き出した。
開門と共にナギが【
「ナギ、お疲れ様」
「優月もね~」
町の中に入ったら、門番が優月達に敬礼する。
「竜神様の使徒にお目見えできて光栄です! 自分は
「逢魔優月だ。左がユノで右がナギ。どちらもドラゴンだ。下野のドラゴンは何処だ?」
侑が竜騎士を名乗ったにも関わらず、彼のドラゴンが見当たらないから優月は訊ねた。
「自分の騎竜は入浴中であります」
「「「入浴?」」」
予想外のワードが飛び出したから、優月達は口を揃えて復唱した。
「当海は温泉の出る町であります。ヌハングは温泉が好きなドラゴンゆえ、普段は温泉に浸かっております」
「当海のドラゴンはヌハングだったのか。世話が大変だろう?」
「使徒様はヌハングをご存知でありますね。自分は手のかかる彼女ができたみたいに感じるので、問題ないのであります」
ヌハングはアザラシに似たドラゴンで、その特徴として真っ先に挙がるのは怠け癖が強いことだ。
とにかく手のかかる種族で、同性の人間をパートナーに認めない。
それゆえ、侑は手のかかる彼女と表現した訳だが、言い得て妙である。
ちなみに、
「さっきコボルドの大群に囲まれた時、ヌハング達は戦ってないようだったが、何時になったら戦うんだ?」
「気分によってまちまちでありますが、今日の展開だったらコボルド達が防壁に取り付がないと動きませんね」
「…よく当海は滅びなかったな」
「毎日ヒヤヒヤしてるであります。折角なので、ヌハング達をご覧になりますか?」
ドラガイアのヌハングがどれだけ怠惰なのか、興味がないと言えば嘘になるから、優月はヌハング達が浸かっている温泉について行った。
その温泉は竜脈のすぐ近くにあり、ヌハング達はアザラシよりも脱力した姿でいたが、優月を見た瞬間に反応する。
「「「オウッ!?」」」
嫌な予感がしたユノは、優月の前に立ってル◯ンダイブする雌のヌハング達を【
「私の優月に近寄れると思わないで」
「「「オウオウッ!」」」
横暴だと訴える雌のヌハング達に対し、ユノは怒りの込められたプレッシャーを放つ。
「気まぐれでしか動かず怠惰に過ごしてるのに、偉そうに抗議しないでくれる?」
「「「オウ…」」」
ユノのティアマトという種族は、ヌハングから比べて遥か高みにあるから、雌のヌハング達はやってしまったと気づいて委縮した。
ついでに、雄のヌハング達もユノやナギを見て声をかけようと思っていたのだが、ユノのプレッシャーでそんな気持ちは吹き飛んでしまい、心の中が恐怖一色に染め上げられていた。
「温泉で寛いでないで、当海のために働きなさい。返事は?」
「「「…「「オウッ!」」…」」」
雄も雌も関係なく、ユノに発破をかけられてヌハング達は軍隊顔負けの返事をした。
この姿を見て侑は感激した。
「こんなにはきはきしたヌハング達を見たのは、何時振りだか覚えておりません! ユノ様、ありがとうございます!」
「ここの町の竜騎士はヌハング達を甘やかし過ぎ。ドラゴンを大事にすることと、甘やかすだけなのは別なの。わかった?」
「はい!」
ヌハング達の怠惰について、ユノはヌハング達の気質だけでなく当海の竜騎士にも問題があると忠告した。
ユノのおかげでヌハング達の目つきが変わったから、侑はただ甘やかすだけにならないようにしようと心に決めた。
侑も心を入れ替えたところで、ユノは一仕事終えたため息を吐き出した。
「ユノ、お疲れ様」
「帰ったらいっぱい甘えたい」
「良いよ。この後もう一仕事頑張ったら、ユノのリクエストを聞いてあげる」
「今、なんでもって言ったね? 頑張るわ」
なんでもとは優月も言っていないけれど、ユノが無茶なお願いをしたことは今までになかったから、優月はそれで良いやと思ってユノの頭を撫でた。
それから、優月は温泉の端に置いてある石化した卵を手に取る。
当海には石化した卵が1つしかなく、優月の左手にソフィアの使徒の紋章を浮かび上がり、卵の石化が解けていく。
元通りの姿になった卵の中には雛がおり、音を立てて殻を割って姿を見せた。
「オウッ」
優月達が当海に来て8体目のヌハングである。
優月を見て目にハートマークを浮かべ、頬擦りしていることから鑑定せずともこのヌハングが雌であるとわかる。
「なんと、孵化したであります!」
「それだけじゃない。ユノ、頼む」
「うん」
竜脈のエネルギーを使い、ユノが当海を覆う結界を展開すると同時に地鳴りが生じる。
結界を展開するついでに、竜神神社と当海の竜脈を繋ぐ転移魔法陣も設置できたので、これで優月達は当海に来やすくなった。
「何がどうなったでありますか?」
侑は幻想的な現象が起きたことで、訳がわからなくなって優月に訊ねた。
「ユノが竜脈のエネルギーを活性化して、当海を結界で覆ったんだ。これでモンスターが防壁の中に入って来ることはない」
「本当でありますか!?」
「本当だよ。だけど、結界はヌハング達が楽をするために展開したんじゃない。結界でいざとなったら逃げ込めるばしょができれば、積極的にモンスターを狩れるだろ? ユノにも注意された通り、竜騎士として当海を再興させるんだ。良いな?」
「わかったであります! 頑張ります!」
今までは、何時壊されるかわからない防壁に縋っていたが、防壁に変わる結界があるのなら、ヌハング達と共にこちらから攻めることもできる。
ずっと待ち望んでいた展開が来たから、侑はやる気に満ち溢れた返事をした。
「あっ、しまった。ここの町長に話をせずに色々進めちゃったわ」
「大丈夫であります。町長は自分の母であります。結界を展開するのは急を要する事情だったため、自分が報告よりも先に結界の展開を優先したと言っておくであります」
「下野って町長の息子だったのか」
「そうであります。言い忘れてたであります。失礼しました」
町長の息子と名乗るよりも、当海竜騎士団副団長であることを名乗るのは責任感の成せることだから、優月達は侑を責めたりしなかった。
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