第217話 捨て駒じゃねえ! 捨て奸でごわす!
最上階層に到着した時、そこには分厚い扉が用意されていたが、優月達が到着すればゴゴゴと音を立ててそれが開く。
「道中で手に入れた魔石が全てなければ、扉が開かない仕掛けになってたわ」
「フォルネウスは用心深い、いや、陰湿な奴だな」
用心深いという表現を言い直すぐらいには、優月は海底ダンジョンの仕掛けにイラついていた。
扉が開いた時、そこにいたのは両手10本の指の先に暗炎を灯す雄悪魔だった。
「フォルネウスめ、逃げやがったな」
「そうね。あいつはヤンガンティタン。フォルネウスの捨て駒よ」
「捨て駒じゃねえ! 捨て
ユノの言葉に噛み付いたヤンガンティタンは、10の暗炎を束ねて柳葉刀を作り出してユノに斬りかかる。
「キェェェェェェェェェェ!」
「弐式:逆風」
ヤンガンティタンが二の太刀要らずの振り下ろしを放つのに対し、優月はミストクレールを抜いて対抗する。
当然、斬り上げて弾くだけに留まらずに優月は次の攻撃に移る。
「陸式:腥風」
ヤンガンティタンよりも上を取っていたならば、漆式:勁風を放つのがセオリーだったけれど、弾き返すのがやっとでヤンガンティタンの上が取れなかった。
それゆえ、優月は小回りの利く陸式:腥風で追撃したのだ。
「女々しか!」
優月の攻撃を女々しいと一蹴し、ヤンガンティタンは一振りでいくつもの斬撃を飲み込む斬撃を放ってみせた。
最後の斬撃を飲み込むと同時に消滅したが、力押しの斬撃だけでどうにかするヤンガンティタンに優月はドン引きする。
「マジかよ」
小さい斬撃の連撃とはいえ、ナギの力が上乗せされているのに打ち破るだけの膂力があるのだから、優月でなくてもドン引き待ったなしだろう。
もっとも、ヤンガンティタンは敵の誰にドン引きされようと全く気にしないのだが。
「小技に頼るんば女々しか! じゃっどん、ここで討ち取れんばわっぜ女々しか! キェェェェェェェェェェ!」
攻撃するのを止めないヤンガンティタンは、柳葉刀から暗炎を放出して刃を伸ばしながら振り下ろす。
「參式:柳風」
打ち合いを望むヤンガンティタンに対し、優月は冷静にヤンガンティタンの攻撃をくるりと回転して躱す。
遠心力たっぷりの雷光を纏った一撃がヤンガンティタンの首を刎ねる。
ところが、ヤンガンティタンの体は光の粒子になって消えず、離れ離れになったはずの首と体の切断面から生じた暗炎の結びつきによって元通りになる。
「不死身か? いや、アンデッド型モンスターじゃないはずだが」
「優月、そいつヤバい。【
「うわぁ…」
【
最初はMPをコストに再生するのだが、MPが尽きた場合は他の能力値をコストにHPを回復させる。
正直なところ、効果が発動すればするだけ元々の状態より弱体化して遠ざかるので、基本的にアビリティ保有者が満足することはない。
地球のダンジョンで【
「優月、私達も戦うわ」
「戦うの!」
「僕も!」
「そうだな。時間も限られてるから全員で倒そう」
海底ダンジョンが水没する前にヤンガンティタンを倒し、クリティウス号に乗り込んだ状態で脱出しなければならない。
だからこそ、優月はヤンガンティタンに女々しいと言われようが意地を張らないのだ。
自分の意地よりも家族の安全の方が優先度は高いのが優月である。
【
「キェェェェェェェェェェ!!」
全身を暗炎で包み込み、浄化されまいと抵抗するヤンガンティタンだが、それによって生じた影はリオにとって好都合だ。
「捕まえるよ」
【
「捕縛なんざ女々しか!」
「嘘でしょ!?」
「援護するの!」
「
自力で影に逆らった動きをし始めるヤンガンティタンを見て、リオはそんな存在がいるなんてと驚く。
ニケは【
「それで十分だ。玖式:霜風」
足止めしてくれるだけで十分だから、優月はヤンガンティタンを真っ二つにするつもりで雷光と冷気を纏う斬撃を放つ。
それがヤンガンティタンに命中し、上半身と下半身が斬り分けられて切断面から凍り付き、雷光がヤンガンティタンの抵抗力を削ぐ。
「おはん寝ぼけちょるんか! この程度でおいはくたばらん!」
上半身と下半身が分かれてなお、それだけ吠えられるヤンガンティタンに呆れつつ、ユノは【
「くっ、この程度の攻撃から抜け出せんとは、おいは恥ずかしか! 生きておられんご!」
【
その事実を恥じ、ヤンガンティタンは切腹した。
「なんでなの!?」
「訳がわからないよ!」
年少組はヤンガンティタンの行動の意味がわからず困惑するが、優月達だってわかっている訳ではない。
【
そう思う者もいるかもしれないが、ヤンガンティタンは自分の死に時を決められることに満足したから復活しなかった。
聖魔石がドロップして、それと同時にガチャマシンも出現する。
ナギが【
「呆れちゃう敵だったね~」
「そうだな。みんなお疲れ様。申し訳ないけど労うのは後だ。ガチャを引いて撤収するぞ」
優月はそう言ってガチャを順番に回させる。
ドロップした7つの内2つは聖魔石だから、5つの魔石でガチャを回すのだ。
上下編の物語が記された本が2冊と老竜の牙、自白剤、乾パンが排出された。
「優月、クリティウス号を出したわ」
「ありがとう。アイテムチェックは後回しだ。乗り込め」
戦利品を持って優月達がクリティウス号に乗り込んだ直後に、海水がこの階層まで流れ込んで来た。
その数秒後、ダンジョン崩壊の時を迎えて優月達を乗せたクリティウス号は海底ダンジョンの外に強制転移させられた。
『お帰りなさいませ。目的地は瑞穂の金川港でよろしいでしょうか?』
「それでよろしく」
『かしこまりました。安全運転で出発します』
パイロットシステムが作動し、クリティウス号は深海から金川港に向かって出発する。
フォルネウスを探すべきではあるが、深海で戦うのは分が悪い。
そのように判断し、優月は一度地上に戻るべきだと考えて金川港を目指すよう指示した訳だ。
そこにソフィアの念話が届く。
『優月、よくやってくれました。海底ダンジョンを踏破したので、ドラガイアに残るダンジョンは天空ダンジョンだけですね』
(…パイロットシステムの声がソフィア様の声だから、一瞬どちらなのか判断に迷いました。別の声に変えられませんか?)
『間違われたら悲しいですから、パイロットシステムの口調をラフな感じに変更しますね』
クリティウス号のパイロットシステムの声を決めたのはソフィアだから、簡単に声を変えてもらえるのではと思っていた優月だが、ソフィアは変えたくないようで口調を変えるという対策を実行した。
『ソフィア様が設定を変更したから口調を変えるね。操縦性能に変わりはないから安心して良いよ~』
ラフなアナウンスが流れ、ユノ達は優月とソフィアが念話でパイロットシステムの音声について喋ているのだと察した。
とりあえず、区別がつけば良いのは間違いないから、一旦パイロットシステムの問題は片付いたので優月は気になっていることを訊ねる。
(ソフィア様、フォルネウスは天空ダンジョンに逃げたんですか?)
『いいえ、違います。フォルネウスは海を猛スピードで移動しています』
(…なんでです? もう頼れる所なんて天空ダンジョンしかないはずでしょう?)
『私もなんでもはわかりません。正直、フォルネウスの行き先に心当たりがないんです。今も見落としのないようにしっかりと監視していますが、とにかく海底ダンジョンがあった場所から猛スピードで離れていますね』
ソフィアに心当たりがないと言われれば、優月にはもっと心当たりがないのでソフィアに監視し続けてもらうしかない。
今日の探索はここまでだろうかと思ったその時、ソフィアはフォルネウスに変化があったのを見つけた。
『優月、フォルネウスが進路を変えました。瑞穂です。優月達より早く瑞穂に着き、報復する気のようです』
「クリティウス号、金川港に超加速モードで向かってくれ。フォルネウスが瑞穂を狙ってるらしい」
『OK! ちゃんと捕まっといてね~!』
ソフィアの声なのに軽い調子で応じられると違和感があるが、その仕事ぶりに変わりがないなら良いと判断し、優月はユノ達にスッと抱き着かれたまま金川港に向かった。
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