第10章 竜騎士さん、北の大地に向かう
第91話 まだこの竜脈は枯れてない。この町は助かるぞ
ドラガイア生活41日目、優月達は雨が降ったため休暇にした。
ドラガイア生活42日目、午前中の時間を使って優月達は卯田の南西にある
田鍋のドラゴンはドラプス、高坏のドラゴンはドラバゲス、丹葉のドラゴンはシックリューだったので、既出の種類だけである。
「使徒様、午後の予定をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「北の大地に向かう。あっちにある町さえ救援が完了すれば、東瑞穂の救援が完了するからな」
「北の大地ですか。あそこは特殊な場所です。私が言うまでもないかと思いますが、十分に気をつけて下さい」
「瑞穂で唯一都市だけが陥落したんだったな。
北の大地は瑞穂において例外的な土地であり、都市の方が先に滅んで町が残っている。
刹幌は北の大地の中心部にあったのだが、その近くにダンジョンがあったせいで北の大地の端にある他の町よりも被害が大きく、真っ先に滅んでしまった。
今の刹幌はソフィアが結界で竜脈だけを保護している状態であり、それ以外は見捨てられた都市になっている。
北の大地に点在する町では、刹幌の生き残りが散り散りに流れ着いており、今も刹幌奪還のために町の竜騎士団と手を取り合っている。
「その通りです。勝手な想像で恐縮ですが、使徒様方は瑞穂の汚点を先に見たからこそ北の大地の住民に好感情を抱くのではないかと存じます」
「逆に言えば、最初に降り立ったのが北の大地だったなら、今以上に瑞穂の都市を見限ってたかもしれないな」
優月が意地悪な言い方をしたものだから、竜希はぐうの音も出なくなってしまった。
「自業自得だから仕方ないわ。それで、久世とリューマは北の大地に同行するの?」
「同行したいところですが、北の大地の方々は救援要請に応じなかった本州の都市に対し、今も悪感情を抱いております。私が同行することで使徒様方の邪魔になる可能性が高いため、留守を預からせていただきます」
優月がいくらソフィアの使徒だとはいえ、竜神教の巫女がいれば話を聞いてもらえない可能性があるから、竜希は同行しないと告げた。
「わかった。そう言うことなら、俺達だけで向かおう」
話が終わり、優月達は転移魔法陣で廣崎まで移動してから、ニケの背中に乗って北の大地に移動する。
廣崎から北の大地の間には海が広がっており、陸続きの道はない。
海風が強くてそれを遮るものがないから、力が弱いドラゴンでは北の大地には辿り着けまい。
「ユノ、障壁を張ってニケを手伝ってくれ。ナギも【
「任せて」
「は~い。頑張れ~」
「キュウ!」
ユノとナギの支援により、強い海風が吹こうともニケは加速して北の大地に渡ってみせた。
流石に疲れたようだったから、優月はニケとナギの役割を交代させる。
「お疲れ様。よく頑張ったな」
「キュイ♡」
優月に撫でられた上に優しく耳元で囁かれたため、ニケはすぐに元気になった。
傍から見ればチョロいと言わざるを得ないが、優月達の中でそのようなことを言う者はいないから、ニケは北の大地最南端の町である
箱竪は東西と北を山に囲まれた町であり、残る南は海に面した町である。
海から水棲型モンスターが襲撃する頻度は多いが、山を越えて来るモンスターは限られているのでどうにか今日まで持ち堪えられていたようだ。
ところが、優月達が上空から見下ろした箱竪は大変なことになっていた。
「南の海で戦ってるから、東西と北の危機に気づいてないのか?」
「そうだと思う。助けてあげましょう」
「OK。まずは数を減らそう。ナギ、【
「は~い」
三方の山を乗り越えたモンスターの大群を見つけ、ナギが【
上空からの攻撃されたことで、自分達が狙われていると自覚したモンスター達は弱い者から逃げ出していく。
この場から逃げ出さず、残った者が箱竪を苦しめると考えて優月達は残党狩りを始める。
「悪いが時短させてもらう。翠嵐流伍式:暴風」
優月は狩魂剣キログラムの刃を霊体化させて、スチュパリデス3体とキマイラ2体に向けて魂に直接届く斬撃を喰らわせた。
普段は翠嵐流の腕を磨くため、狩魂剣キログラムの刃を霊体化させたまま翠嵐流は使わないのだが、取り逃がすと被害が甚大になるから自分に課した制限を一時的に解除した。
ナギの【
箱竪の南の浜辺では、箱竪竜騎士団が毛がフサフサなワイバーンに騎乗し、水棲型モンスターやサファギンの大群とまだ戦っていた。
「箱竪竜騎士団、気合を入れろ! 敵は南だけにいないぞ!」
「「「…「「おう!」」…」」」
箱竪竜騎士団は10人近くおり、数の暴力にどうにか対抗できていた。
「ニケ、そろそろ戦えるか?」
「キュウ」
「良い子だ。【
「キュイ!」
十分に休憩できたから、優月の言葉に頷いたニケは元の大きさに戻り、【
上空からの奇襲だったこともあり、上陸したモンスター達はあっさりと凍り付いた。
事態が飲み込めていない箱竪竜騎士団は、自分達が助けられたという事実はわかっても助けてもらえる当てがなかったから、どうしてこうなったのかわからずフリーズしたのだ。
「みんなお疲れ様。さて、箱竪竜騎士団の責任者は誰だ?」
「…あっ、はい。私です。箱竪竜騎士団長の
「よろしく。竜神様の使徒、逢魔優月だ。共に来たのがパートナーのユノと従魔のナギ、ニケだ」
「竜神様、それに使徒も実在したのですね…」
優月は左手にソフィアの使徒である証を浮かべて自己紹介したのだが、睦実達のリアクションは鈍かった。
信じられていないように感じられたから、優月はユノに視線をやってドラゴンの姿に戻ってもらう。
それと同時に【
これには睦実達も失礼な言動をしてしまったと思い、その場で平伏した。
「誠に申し訳ございません! 北の大地は内地からの援助が途切れて20年以上経っており、祈っている暇があれば行動するのが当たり前だったのです! 悪意や敵意がある訳ではございません! 罰するならどうか私だけにして下さい!」
「この程度で罰するつもりはない。むしろ、よく今まで耐えてくれた。ソフィア様も自分の声や支援が北の大地に届かなかったことを嘆いておられた。だからこそ、俺達をドラガイアに遣わしてここまでやって来た」
「慈悲深き言葉に感謝申し上げます!」
睦実の目から涙が零れ落ちた。
それは感謝と達成感の入り混じったもので、自分達の踏ん張りをソフィアが見ていたということが堪らなく嬉しかったのだ。
無論、ソフィアは竜神ゆえに1つの国の1ヶ所だけを特別重視することはないが、事前情報として北の大地の竜騎士団が劣悪な環境で耐え続けていることを優月達に伝えていたため、先程の優月の言葉が出た訳だ。
竜騎士団員達も睦実と同じく涙を流していた。
彼等にとって感動的なシーンなのは間違いないが、優月としては今の箱竪の状況を少しでも早くどうにかしたかったから、水を差すようで申し訳なかったけれど、優月は睦実に声をかける。
「すまないが、今の箱竪はまだ安全とは言えない。竜脈がある場所に案内してほしい。箱竪を守るために必要なんだ」
「失礼しました。すぐに案内いたします」
優月が箱竪を守るために必要と言ったのだから、睦実は気持ちを切り替えて優月達を竜脈のある場所に案内する。
それは六芒星の砦の跡地であり、弱弱しいながらもまだ竜脈は枯れていなかったし、石化した卵も4つ安置されていた。
「まだこの竜脈は枯れてない。この町は助かるぞ」
そう言って優月が石化したファーバンの卵に触れれば、竜脈の力が活性化して石化が解除される。
「ムファ~」
「雛が孵化した!?」
睦実が目の前で起きたことに驚いたが、変化はそれだけに留まらず残り3つの卵も孵化した。
「「「ムファ~」」」
「よし。ユノ、いつものやつを頼む」
「任された」
ユノが竜脈の力を使って箱竪に結界を展開し、転移魔法陣を設置した。
箱竪は北の大地の最南端の町だったから、街道は掘り起こされなかった。
それでも、優月とユノのおかげで箱竪はようやく安全な場所になったと言えよう。
夢にまで見た光景を見て、睦実は両膝を突いて天に感謝の祈りを捧げた。
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