正直に言うと、この作品は内容の好み以前に、まず文章の強さに引き込まれました。
過剰に飾り立てるわけでも、逆に削ぎすぎるわけでもなく、
必要なものだけを、ぴたりとそこに置いてくるような筆致で、
場面の温度や湿度、光の鈍さ、不穏さが自然に立ち上がってきます。
渋谷の雑踏、高層ビルの無機質な静けさ、監視室に流れる息苦しい沈黙。
どれも説明されるというより、読んでいるうちに自分の周りへ滲んでくる感覚がありました。
こういう「文章そのものに読ませる力がある」作品は、やはり強いです。
本屋に並んでいたら、私は迷わず手に取って読むと思います。
不穏で曖昧で、まだ輪郭を見せきらない怖さまで含めて、
書く力そのものに惹かれる作品でした。