時空の石物語

こむぎ

第1話

 いつもと変わりのない通学路を、ライは歩いていた。右手に鞄を持ち、後ろに大きなケースを背負っている。

 一つため息をつくと、空を見上げてみた。快晴とも言えないが、曇ってるとも言えない、秋の晴れた空。そんな青い空を見てみる。

 視線を行く方向に戻すと、鞄の紐を握りなおした。そして、アスファルトでできた道を進む。

 彼女の後ろからさやかがやってきた。彼女も同じように鞄を持っている。彼女はライの姿を見ると、速足で近づいていく。

 ライの数十センチ後ろでさやかはしばらくあるいていた。手を少し上げて深く息を吸う。

「お、おはよう……!」

 息を吸った割には小さな声で、ライに挨拶をした。すると彼女は後ろを振り向き、

「おはよう」

 と笑顔で返した。その声にドキっとしたさやかは視線をすぐ横に逸らしてしまう。その先には、道端に積もった雪があった。

 さやかは歩くペースを少し早めて、ライの隣に並ぶ。それを確認すると、ライはまた前を向いて歩いた。

 さやかはライの隣を歩く。その視線は、もう前を向いた、自分よりも背の高いライの顔に向けられていたのだが、だんだんとその視線が下がっていき、彼女の手に向けられた。

 大きくて、暖かい手。その手で守られてみたいとさやかは思った。ライと一緒にいれば、嫌なことも忘れられて安心できる、そう思っていた。

 彼女はライに気づかれないように、そっと手を近づける……けれど、あと数センチのところで手を止め、さやかは自分の手を戻してしまった。やっぱりいつも、勇気がでない……。

 ライはそんなさやかの様子にも気づかず、ずっと前を向いて歩き続けている。

 さやかはため息をついて、ふと空を見上げた。その空は、家を出たときからずっと、灰色の雲で覆われていた。今にも雨が降りそうな、そんな分厚い雲だった。

 それを見てさやかは思った。……今って雪の降る季節だっけ?

 行くとき、確かにカレンダーが八月だったことを思い出して、ずっとライの後ろについて行った。


 さやかとライは学校に着くと、いつものメンバーが教室にいた。ミワ、スミレ、レイカ、リンネ、カナタ、ヒカルにララ。みんなとはよく学校の屋上で、楽しく雑談をしている仲だ。

「おっはよ~!」

 一番最初に挨拶をしたのはレイカだった。いつものように、明るくて元気のある声だった。

 それからほかのメンバーたちも挨拶をすると、ホームルームが始まる時間になった。


 ◇


 休憩時間、ライは図書室から借りた本をカバンから取り出し、自分の机で読んだ。今日は珍しく、ほかのメンバーたちとは一緒にいなかった。リンネもそうだった。教室の黒板を見つめて、ずっと教卓の前に立っている。

 ほかのメンバーたちもそう。今日はなんとなく気が合わなく、みんなはそれぞれの行きたい場所に行っていた。

 そうしてのんびり休憩時間を過ごしていた時、ふとライは、窓の外から見える景色に違和感を覚えた。さっきまで空は晴れていたはずなのに、空は暗く、ちらちらと白い粒が降り注いでいた。いつの間にか雪が降っている。

 焦ったライは、窓を開けてみる。そこから外の景色を見てみると、雪が降っていたのはもちろん……あたり一面が雪景色となっていたのだ。先ほど通った通学路はどこにも見あたらなく、スキーができそうな雪の積もった山道が見えた。針葉樹がたくさん生えていて、これじゃまるで森だ。

 ライはそんな様子を信じられず、目をこすってもう一度見てみる。けれど景色は相変わらず、雪の積もった山と森だった。

「……ねえリンネ!? 外、おかしいんだけど」

 ライは教卓の前に立っていたリンネの名を呼ぶと、彼女の方に近づいて行った。

 リンネはライの方向を振り向いた後、窓の外を見てみる。数秒外の景色を眺めた後、何か納得をしたのか、ほう、と小さく声を漏らし、ライの方へ振り向いた。

「時空が歪んだっぽい」

 リンネは真顔でそう言った。ライはそんなリンネの言動に困惑をする。

「時空が歪んだって……どういうことよ?」

 すぐにリンネに問い返していた。するとリンネは、

「だってそれ以外で説明がつかないでしょ~」

 と笑顔になって返す。なんでそんな超常的なこと、すぐ受け入れられるんだよ。ライはそう思った。

「……おい、なんだこの扉は?」

 後ろから声がして、ライとリンネは振り返った。教室のドアから声がしているみたいだ。先生が来たのだろうか、ライはそう思っていたけれど、それにしても聞きなれない声だ。一体誰だろう。

 ライとリンネは、すぐにはドアを開けずに、耳を当てて、扉の向こうの声に耳を澄ました。

「どうせろくでもないもんだよ。大天使様にでも報告したら?」

「はあ? 別にこれっぽっちの扉、いちいち報告する必要ないだろ」

「一応だよ、一応。ほら、行くぞ。」

 そんな男性同士の会話が聞こえてくる。その会話は、もうここを離れたのか、声が小さくなってきて、とうとう聞こえなくなった。

「これはなかなか面白いことが起こってるの~」

 ライの隣で、リンネはそう呟いた。そして立ち上がる。ライもそんな様子を見て立ち上がった。

「何が面白いのよ、外とかおかしくなっててさ笑えないんだけど。これは夢?」

とライは言う。そうだ、いきなり外の景色が雪景色になって、扉の外からも知らない先生の声が聞こえてくる。もしかしたらこれは本当に夢なのだろうか。

「ライはファンタジーとか興味ある?」

 そんなライの話も聞かず、リンネは意味深にライに尋ねた。その返答にライはどう返していいかわからなかった。いきなり何を言っているの?

「べ、別に嫌いではないけど……」

 自分でもあまり満足のいかない返答をする。なんでいきなりファンタジーの話を。するとリンネは、

「じゃあ今から面白いものを見せてあげるぞ~」

 と言って、教室の扉に手を触れて、引いた。

すると眩しい光が視界を遮り、ライは思わず目を細める。その眩しい光はだんだんと収まり、ある景色になった。

 扉の向こうには、雲一つない、青くて爽やかな空が広がっており、下には白い雲が見えていた。まるで飛行機に乗ってるときに見る景色みたいだ、ライはそれを見てそう思った。

「ほら、ついてきてみ~」

リンネはそう言うと扉の向こうの世界へと向かって歩いた。その様子を見たライは、慌てて自分のケースを背負って後ろについて行った。……これ、絶対後悔するやつだ。そう思いながらも、好奇心に駆られ、結局リンネについていくことになった。

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