第37話: そうなるよね!
森はいつの間にか、森じゃなくなっていた。
ダンテは歩きながら欠伸をひとつ。
「いやー、静かだなぁ。平和ってやつ?敵も出ねえし最高じゃん」
「……ダンテ」
「ん?」
ラミエルは立ち止まって、首を傾げていた。
「この森、さっきと匂いがちがう」
「匂い?木の匂いは木だろ。全部一緒一緒」
「ちがう。ここ、土がやさしい」
「なにそれこわ」
ダンテが笑いながら振り返ると、
そこには――道がなかった。
「……あれ?」
一本道だったはずの獣道は消え、
代わりに広がっているのは、なだらかな畑と低い石垣。
森のざわめきは遠く、
風の音が、どこか丸い。
「おーい、ラミエル?」
「うん」
「これさ……」
「迷子だね」
即答。
「即答すぎない!?」
ダンテは慌てて周囲を見回す。
「いやいや待て待て、落ち着け。ヴァルキリー連絡隊は……」
空を見る。
――見えない。
木々は低いのに、空がやけに広く、誰も飛んでいない。
「……あれ?」
ラミエルも空を見上げて、ぽつり。
「ねえ、ダンテ」
「な、なんだよ」
「ここ、天使の音しない」
ダンテの背中に、ぞわっとしたものが走る。
「……音?」
「うん。羽の音。風の中に、ない」
「……やめてくれよ、そういうの」
ダンテは無理やり笑って歩き出す。
「だ、大丈夫だ!きっとちょっと外れただけだって。な?」
その瞬間。
――ザクッ
ダンテの足元が沈んだ。
「うわぁぁ!?ぬかるみ!?いや畑!?うわ踏んだ踏んだ!!」
「ダンテ!だめ!それ、植えてるやつ!」
「え!?え!?ご、ごめんなさーい!!」
慌てて飛び退くダンテ。
その先に――人がいた。
⸻
畑にいた、変な若者
鍬を肩にかけ、
麦のような作物を整えていた若い男。
年は二十前後。
服は質素だが、どこか見慣れない縫い方。
男は、二人を見て――首を傾げた。
「……旅の人?」
言葉は通じる。
だが、発音が微妙に違う。
「え、あ、はい!旅です旅!完全に旅です!」
ダンテが即答する。
「すまん!畑踏んだ!本当にすまん!!」
男は一瞬きょとんとした後、ふっと笑った。
「いいよ。まだ“目が覚めてない畑”だから」
「……え?」
「踏まれる前提の日」
「なにそれ哲学!?」
ラミエルが一歩前に出て、男をじっと見る。
「ここ、どこ?」
男は不思議そうに二人を見比べてから答えた。
「ここ?
名はあるけど、呼ばれない土地だよ」
ダンテ、思考停止。
「……えーと、つまり?」
「迷った人が来るところ」
ラミエルが小さく息を呑む。
「……やっぱり」
「やっぱりって何!?」
男は鍬を地面に立て、穏やかに言った。
「まあ、立ち話もなんだ。
水、飲む?」
ダンテは即答。
「飲む!!」
ラミエルも小さく頷く。
「……のむ」
二人は知らぬ間に、
世界の地図から一度消えた場所へ
足を踏み入れていた。
――そしてまだ、
それに気づいていない。
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