第26話: 沈黙の神と、屈服の選択
祈りは、いつから音になったのだろう。
最初は誰かの小さな呟きだった。
それが重なり、重なり、やがて部屋を満たす。
横たわるザコは、意識を失ったまま動かない。
呼吸だけが、かろうじて彼が生きていることを示していた。
アリアは額に手を当て、静かに魔力を巡らせ続けている。
マッテオは回復陣を維持したまま、祈りを止めない。
ガロンは拳を握り、歯を食いしばって天を睨んでいた。
――神よ。
誰もが同じ言葉を胸に抱いていた。
だが、返事はない。
沈黙だけが、そこにあった。
その沈黙を破ったのは、ダンテだった。
天井を仰いだまま、吐き出すように言う。
「……なぁ」
誰も反応しない。
「なんかさ。アホらしくなってきたな」
一瞬、空気が凍りついた。
「……てめえ、何言ってやがる!!」
ガロンが声を荒げる。
「ここまで来て、祈るのをやめろってのか!?」
ダンテはガロンを見ない。
「違ぇよ。
やめるも何も……もう、意味なくねぇか?」
沈黙。
誰も否定できなかった。
「ずっと祈ってる。
でもさ、何か変わったか?」
ガロンが言葉を探すより先に、
静かな声がそれを切り裂いた。
「……それも、一理ある」
イーリスだった。
全員の視線が彼女に集まる。
「イーリス……お前まで、何を言い出す」
ガロンの声は、怒りよりも戸惑いに近かった。
イーリスはザコを見る。
眠るその顔には、かつての無力さが残っている。
「祈りが“届いていない”ことは、
もはや証明されてしまっている」
淡々と、事実を述べるように。
「神は沈黙を選んだ。
なら今この瞬間、祈りは力を持たない」
誰かが息を呑む音がした。
「……じゃあよ」
ダンテが続ける。
「俺たち、どうすりゃいいんだ?」
イーリスは少しだけ黙り、言葉を選ぶ。
「結論だけを言えば」
その声は、残酷なほど冷静だった。
「このままでは、我々はレオニウスに屈することになる」
ガロンの拳が震える。
「ふざけるな……!!
それじゃあ、ここまで来た意味は何だ!」
「意味はある」
イーリスは即答した。
「だが、それは“勝つ”という意味ではない」
「じゃあ何だって言うんだ!」
「生き残る、という意味だ」
沈黙。
「残念だが」
イーリスは続ける。
「神に忠誠を誓い、
神の判断を待つ限り――
我々に選択肢はない」
レオニウスの蹂躙は、刻一刻と迫っている。
ザコは眠ったまま。
神は沈黙したまま。
祈りは、力を失った。
それでも生きるなら、
人は選ばなければならない。
この世界で、誰に屈するのかを。
その夜、彼らは決断する。
―― 一度、レオニウスに屈する、と。
それが敗北であることを、
誰よりも理解しながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます