第17話 5



「話を少しまとめようじゃないか」

 アレックが言い始めた。アレックが買って来た少々センスの悪い服に着替え(やっぱり地味なブラウスとスカート)、濡れた服を乾かしつつ簡単な食事をとっていたときだった。河岸界隈には食堂や屋台もたくさんあったそうで、アレックは肉汁滴る串焼きや具だくさんのサンドウィッチにデザートのプリンまで買って来たのだ。

 ほう、デザート付とは気が利いているじゃないか。

 そんなことを思いながら、レナは熱々の肉に舌鼓を打っていた。


 倉庫街のはずれにある廃倉庫だけあって、人が来る気配はない。3人は気を緩めて今後の傾向と対策を練ることにした。

「まず、パラスティード公ってなんです?」

 王国側の人間のはずなのに敵であるのは間違いないようだが、いまいち把握できない。

 そうですねぇ、と少し考えてジュリエットは話し始めた。


 パラスティード公爵家。ミネルバ王国建国時から続く王家に次ぐ大家である。過去に何人も宰相を輩出している優秀な家系である。当世でも前パラスティード公が宰相を務めていた。そのパラスティード公が馬車の事故で急逝したのはつい2週間ほど前。事故の原因は、車軸の破損ということだったが、そもそもおかしいのだ。きちんと点検されていることはわかっていたのに、その日急に壊れたのだ。なぜ壊れたのか。その理由はうやむやのままだった。

 突然の要人の喪失に宮廷は大混乱した。

 その大混乱の最中に、パラスティード公の嫡男ラファエルが先代の後を引き継ぎ、パラスティード公の名乗りを上げたのだ。さっきのクセツヨおネェだ。

 そして国王と3人の宰相補佐たちが空席の宰相の役割を埋めるべく、駆けずり回っている真っただ中に革命が勃発したのだった。

 なんの準備もなく手立てもなく、王家は廃され王宮は制圧されて革命は成立してしまった。


「じゃあ、城から脱出する途中で姫様とレナは出会ったんだな」

「そうです。わたくしはお城の外のことは何も知らなかったから、レナに頼ったのです」

 レナもこっくりとうなずいた。

「……ジャンヌというのは」

 ジュリエットは目を閉じて、ふうっと息を吐いた。

「ジャンヌはわたくしの侍女で影武者です」

「影武者……」

「じゃあ城壁から吊るされていたのは」

「わたくしの身代わりのジャンヌです」

 アレックは頭を抱えた。

「あのヤローはそれをわかっていて見殺しにしたわけか」

「……そうなりますね」

 ジュリエットがぷるぷると細かく震えている。レナは思わずその背中をさすった。


「それじゃあ、まるっきり無駄死」ばすっ! レナは持っていたサンドウィッチをアレックに投げつけた。

「余計なことを言うな!」

「あ、ああ。そうだな。悪かった」

 アレックは頭を掻きかき、続けた。

「前パラスティード公もあいつが手を掛けたみたいなことを言っていたじゃないか」

「……そうですね。ラファエルの話をまとめるとそうなります。革命のこともすべてあの人が画策したのだと思います」

 ふうー。誰ともなくため息をついた。

「いったい何人殺したんだよ」

 アレックがつぶやいた。レナが逃げ出してきたとき、王宮内は阿鼻叫喚だった。革命軍が剣を振るっているのを見たし、血まみれで倒れている人もたくさん見た。

 ジョージは無事に逃げ出せただろうか。

「……革命軍はこの茶番劇に気づいてんのか?」

 アレックがぽつりと言った。

「どうでしょう?」

 ジュリエットが小さく答えた。

「革命軍の下っ端連中は、革命の成功を信じて浮かれているんだろうが、リーダーのジョン・ドゥだったか、そいつはどうなんだろうな。ラファエルの策略に乗っかったとも思えねぇが」

「だまされているんだと思います」

「じゃあ、気づいたときの反発が怖いな」

 革命軍が反革命軍になるなんてあるんだろうか。漠然とレナは思った。


「おまえ、あいつと知り合いか?」

 唐突にアレックがレナに聞いた。ぼうっとしていたレナは、ぴょこんっと肩がはねた。

「え? あたし?」

「ああ、なんだか知っているみたいだったから」

「まさか。洗濯係の下女が公爵様なんて知るわけないじゃないの」

 だよなー。とアレックは言ったが、納得もしていないようだった。

「あいつとおまえ、髪と瞳の色が同じだったな。血縁関係があるのか?」

「ないない。あたしは孤児だもん」

 あーあ、孤児だってわかったらまたバカにされるのかな? とレナは思った。

「おふくろさんやおやじさんのことはわかるのか?」

「ママはあたしを置いていなくなった。それっきり知らない。父親は見たこともない」

「そうか。おまえも苦労したんだな」

 バカにされなかった。よかった。ちょっとだけ安心した。

 釈然としないまま、その話は立ち消えた。


 ひとつ、わかったことがある。

 ジュリエットは殺されないらしい。

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