陰陽戦鬼
豚肉の加工品
序
いつからこうだったかは憶えてない。
でも、物心がついた時にはもう見えていた。
完全に自覚したのは小学生の頃、下校中にふと後ろを振り返った。
気配がした、なんて直感じみたものではない。後ろから服を掴まれた、そんな確かな違和感を感じ取って振り返った。
すると、そこには黒い何か……何となく輪郭がある黒い霧のようなものがゆらゆらと浮遊していた。
漠然と感じた危機感から、声も出せずに立ち尽くす。
その黒い霧は一瞬でいなくなったが、自分はその場所に立ったまま何分か経過した気がした。
恐怖からか、今まで動かしていた自分の体が動かせない。
体の中身がなくなったように軽いのに動かせなくなったのは、今でもしっかり憶えている。
◆
あれからもう少しで十年経つ今でも、まだあの記憶は鮮明に憶えている。
体が動いてからは全力疾走で家に帰った。もしかしたら涙も出てたかもしれない、母さんに心配されるくらいには顔がぐちゃぐちゃになっていたらしいから。
確かに何にも説明できなかったし、俺が「変な幽霊が後ろにいた!」なんて言っても「……そんなに酷い虐めにあって」なんて全く話しが通じていなかった。
親父に言った時は「幽霊なんて変なものだろう?」って言われたし。
姉さんに言った時は「ふっ、まだまだガキね」なんて言われた……三歳しか違わないのに。
兄ちゃんに言った時は「幽霊なんて非科学的なものだから、信じるか信じないかは自分次第だよ?」なんて小学一年生に向かって言ってた……五歳しか違わないはずだけど。
「ふっ……」
今でも思い出すけど、親父の言った言葉に思い出し笑いする。
確かに幽霊なんて変なもんだ。十五歳の今となっては、本当に幽霊かも怪しいレベル。今、目の前に見えているものも形のない黒い霧だ。
「ま、昔はマジで怖かったけど」
体に触れたり、小さいものだと視界に入れただけで黒い霧は消滅する。
大きいものでも何回か手で払い除ければ消えていく。
対処の仕方を知ってしまえば、ただの煙だ。
「もう怖くねぇな」
幽霊なんて気の持ちようだって親父も言ってたし、健やかに育てば幽霊なんて寄って来ないって母さんが言ってた。それに師匠も幽霊なんて気合でどうとでもなるって酒瓶をらっぱ飲みしながら笑ってた。
変なものが見えるおかげで視界は悪いが、何年も続いているから気にしなくなってきた。ただ、今日も晴れであることは分かる。
「あ、やべ! みりん買い忘れた!」
中学三年 冬休み。
クリスマスを終えて、年末の落ち着いた雰囲気が漂う商店街を一人だけ慌ただしく走る――――今はまだ、〝悪いもの〟が見えてしまうだけの普通の少年。
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