この物語は、読み手の心をざわつかせる「毒」のような魅力に満ちている。
主人公である中村の語り口は、どこまでも傲慢で冷酷だ。他人を「駒」としか思わず、自らの成功のためなら他人の人生さえ踏み台にする。そのあまりに人間味を欠いたエゴイズムに嫌悪感を抱きながらも、私たちは彼の語る「成功の美学」という名の毒に、いつの間にか毒されてしまう。
しかし、物語が日常の喧騒を離れ、彼の「隠れ家」へと舞台を移した瞬間、空気は一変する。彼が優雅に愉しんでいたはずの焚き火の炎が、まるで見えない意志を持った牙のように彼に襲いかかる描写は、まさに圧巻だ。
最後に響く、あの地を這うような問いかけ。それは単なる復讐の声ではなく、彼が切り捨ててきた多くの命や、彼自身の空虚な内面が形を成して現れたかのようだ。
美しさと恐怖が、炎のゆらめきの中で完璧に混ざり合っている。読み終えた後、暗闇の中でふと背後を振り返らずにはいられない。そんな、心の奥底まで凍りつかせるような至高のサスペンスだ。