第63話 調査員

 メレに国から派遣されてきた調査員が来た。


 一人は眼鏡をかけたパッと見だ感じ真面目そうな黒髪の女性と明るい金髪に緑の瞳の青年。

 きちんと洞窟を探検できそうな服装をしてきている。

「初めまして、メレの領主のシリウスです。今日は坑道を見てくださるのですよね?」

「は、はい」

「それで、入口はどこでしょうか?」

 シリウスと現場監督と全体責任者も一緒に来ていた。


 レオ二ードが遅れてくるので、シリウスに妙な真似をしたら、密かに坑道の奈落に落とすつもりで。


 すべては、愛する領主様のためである。


 そこに後悔とかない。

 こっちは命を救われているのだ。

 

「入口は今の所、ここしかないけど」

 シリウスが、地面にぽっかりと空いた穴を指さした。

「どれくらいの深さですか?」

「大体、メレの一番上から、四階くらいまでの高さかな…」

「それ、降りれますか?」

「…魔法で降りればすぐだよ」

 にっこりと笑う。

「それって、連れて行ってもらえたりしますか?」

「出来れば、その…抱きついて」

 二人が顔を赤らめて言う。

「やだよ。僕…触られるの嫌いなんだよね」


「領主様。少しこの二人と話してもいいですか?」

「何か質問があるの?」

「坑道での注意点を少し」

「あ、そうだね。初めて来た人だものね」

 いいよ、とシリウスが許可すると二人は調査員を連れて行って、シリウスに話を聞かれないように、簡易結界を作動させた。

「お前ら、うちの領主様に不埒な真似したら、生きて帰れると思うなよ」

 強面の大人二人が、調査員を真顔で見た。

「まさか、いやらしい気持ちで、あんなことを言ったわけじゃないよな?

 調査員が魔法で移動できないとか、平民みたいなこと、言わないよな?」

 ごつい手が、調査員の肩に置かれる。

 

 はっきり言って、怖い。


 ドワーフみたいな怖い大人二人に凄まれて、調査員は青くなった。

「もちろんじゃないですか!私達、自力飛行も可能な調査員ですよ!」

「さっきのは、ほんの出来心というか、その…魔が差しただけで、シリウス様いい匂いだなとか、思いましたけれども、本当は自力で降りていくつもりでした!」 

「だよな…」

「分かればいいんだよ」

 ポンポンと肩を叩くその目が笑っていない。


 そう言えば、メレは行方不明者が多い。

 その大半は、ナイトメアという魔物に食われているが、残りの半分は、坑道での事故死だ。


 今、まさに自分達が行こうとしている場所だった。


「さぁ、行こうか」

 ぽんと肩に手を置かれた。

 消される…?

 そんなことを、考えてしまった。

「え?はい」


「あ、話は終わったの?」

 何も知らないシリウスが笑顔で迎えてくれた。

「えぇ…終わりました」

「ちゃんと分かってもらえてよかったです」

 そんな話しをしていると、レオ二ードがやって来た。

「仕事、終わったの?」

「思ったよりはやく終わった」

 シリウスの頭をレオ二ードが撫でる。

「二人も忙しいのに、来てくれてありがとう。後でちゃんと報酬は払うからな」

 レオ二ードが楽しみにしとけ、と言うと二人は笑った。

「ありがとうございます」

「また、酒でも構わないですよ」

「だったら、ノースウッドで作られてるアイスワインと氷結酒を渡そうか?」

「マジですか!」

「嘘は言わないよ」

「一生ついていきます!」

「大げさだなあ」


 ノースウッド辺境伯領で作られるアイスワインと氷結酒は、寒い雪山で熟成されたお金を積んでも買えない酒である。

 限られた本数しか作れないので、あるのはノースウッド領か王城、限られた店にしかない。

 それが飲めるなら、何処までもついていく。

 ドワーフの血を継いでいる二人には、金よりありがたい報酬だった。


 でも、仲間たちに調査員の言動を教えるのを怠らない。

 情報共有は必要なことだ。


 メレにいる間、調査員は常に視線を感じていたという。

 特に、夜道を歩かないように心掛けたおかげで、何事もなく過ごした。

 

 一月後、調査は無事に終わり、問題がないという結果が出た。

 見つかった宝石はメレナイトと名付けられて、今、鉱夫達が新しい道を作っている。

「あの…シリウス様は、鑑定魔法を使えたのでは?」

 私達、いらなかったですよね?

「国に保証してもらえた方がいいでしょう?私には後継者がいるからね。あの子が後を継ぐときに、手間は少ない方がいいじゃない」

 シリウスがにっこり笑った。



 


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