第35話
「落ち着いてなんかいられないわ!
キティちゃん、可愛いから誘拐されちゃったのよお!少年、どうしよお!」
エメラルドは少年――もとい、ロゼの肩を掴み、ぐらぐらと揺さぶる。
完全にティアの“お姉さん”気分だ。
大切な妹分の姿が忽然と消え、完全にパニックに陥っている。
口調は女性的だが、体格はがっしりとした男。
事情を知らない者が見れば、少年をかつあげしている駄目な大人にしか見えない。
「……少年じゃねえ。俺はロゼだ!」
ロゼは低く唸るように言い返した。
どうやら“少年”と呼ばれるのが相当に気に食わないらしい。
眉間に刻まれた皺が、その不快感を雄弁に物語っている。
エメラルドとティアはロゼと面識があるが、
俺はこれが初対面だ。
――ロゼ、という名前を、こうして知ることになった。
「……つーか、さっきから傍観してるそこのお前!
こいつを落ち着かせろよ。友達なんだろ」
混乱するエメラルドを持て余し、
ロゼは腕を組んだまま、俺を睨みつけてきた。
「ああ、そうだな。悪い。
寸劇を眺める観客になっていた」
俺はどうしても、一歩引いた場所から物事を見る癖がある。
エメラルドに歩み寄り、ロゼから引き剥がすように身体をこちらへ向けさせる。
「エメラルド。
あまりうるさいと、その可愛い唇を塞ぐぞ?」
そう囁き、親指で唇をなぞり、顔を近づける。
「なっ……!
レミィちゃんの女ったらし!」
案の定、顔を真っ赤にして叫び、ビンタを繰り出そうとするが、
その手を掴んで止める。
混乱と動揺が重なり、エメラルドは不思議と静かになった。
――昔から使っている手だ。
エメラルドが取り乱した時の、応急処置。
エメラルドは、俺の双子の片割れに恋心を抱いている。
顔が瓜二つな分、効果は絶大だった。
男が男を好きでいること。
その事実に、エメラルドは今も悩んでいる。
あいつ――双子の片割れの前では、
エメラルドは“カルラ”に戻り、男らしい口調になる。
白馬に乗った王子様、とは程遠い男だ。
俺にできるのは、
あいつが新しい女を作って、
エメラルドが「飲みましょうよ」と誘ってきた時、
黙って酒に付き合うことくらいだ。
「ティアがいなくなった、ってことは分かった。
探そう」
「……俺も手伝う。
人数は多い方がいいだろ」
「ありがとう、ロゼちゃん!」
いつものように食事を運んだ。
ベッドでごろごろしているはずのティアが、いなかった。
それ以外に、手掛かりはない。
俺に何か言いたげな視線を向けていたロゼだったが、
たぶん――
今、胸の中で別の言葉を飲み込んだのだろう。
エメラルドは、ロゼの申し出を素直に喜んでいた。
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