1.5部 第7話 ずれた評価

 魔法少女たちの撤退は、計算されたものだった。


 それを、主人公は遅れて理解する。


(……引いた、んじゃない)


(“終えた”だけだ)


 校舎の外に残った空気は、

戦闘が終わった後のそれとは明らかに違っていた。


 緊張は解けていない。

 むしろ、測られた感覚だけが残っている。


「……なんか、後味悪いな」


 一色可憐が、糸を巻き取りながら言った。


「勝ってないのに、負けてもないっていうか」


「それでいい」


 主人公は即答した。


「今回、勝敗は最初からついてなかった」


 旬が、ゆっくりとこちらを見る。


「どういう意味だ?」


「相手の目的は、俺たちを倒すことじゃない」

「“危険度”を決めることだ」


 沈黙。


 姫野が、小さく息を飲む。


「……査定、ってこと?」


「ああ」


 主人公は頷いた。


「どれくらい連携できるか」

「誰が判断してるか」

「どこまで踏み込めるか」


 そして、

どこまでなら許容できるか。


(……最悪だな)


 その時だった。


 校舎の向こう側。

 人の気配が、はっきりと動いた。


 ピンク色の髪。

 仮面の少女。


 距離はある。

 だが、今度は隠す気がない。


「……あれ」


 可憐が、眉をひそめる。


「さっきの子だよね?」


 主人公は、視線を逸らさなかった。


(来るか……?)


 だが、彼女は近づかない。


 ただ、

戦場だった場所を見下ろす。


 その様子が、妙に静かだった。


 そして――


 魔法少女の一人が、彼女の背後に現れる。


「……報告は以上です」


 低い声。

 感情が削ぎ落とされている。


「対象集団、連携あり」

「中心人物は未確定」

「危険度は――」


 一拍。


「“要経過観察”」


 ピンク髪の少女の肩が、わずかに揺れた。


「……それで?」


 彼女の声は、小さかった。


「拘束は?」


「今回は不要と判断されました」

「強制介入は、時期尚早です」


 沈黙。


 仮面の奥で、

彼女の視線が揺れる。


「……分かりました」


 その返事は、

納得ではなく、受諾だった。


 主人公は、遠くからそれを見ている。


(……評価が、割れてる)


 魔法少女側は、

まだ踏み込まない。


 だが――


(踏み込めなかったのは、誰だ?)


 ピンク髪の少女が、ふとこちらを見る。


 一瞬だけ、視線が合った。


 仮面越しでも分かる。


 迷いだ。


(……あいつ)


 唯華が、隣で小さく呟いた。


「……ズレてます」


「何がだ?」


「あの人」

「魔法少女なのに……」

「判断が、遅い」


 主人公は、何も言わなかった。


 だが、胸の奥で同意していた。


(“正しすぎる”んだ)


 組織の判断。

 規則。

 評価基準。


 それに従えば、

彼女の動きは正しい。


 ――正しすぎて、

今の現場には合っていない。


 ピンク髪の少女は、

最後にもう一度だけ戦場を見渡し、

静かに背を向けた。


 その背中に、

主人公は言葉を投げかけたくなった。


(……止めるな)


(今は、まだ)


 だが、声には出さない。


 これはまだ、

選ばせる段階じゃない。


 このズレは、

いつか必ず臨界点に達する。


 その時、

彼女は――


 主人公は、空を見上げた。


(……次は、もっと重い)


 1.5部は、

確実に“誤差”を溜め込んでいた。


 修正されるか、

破裂するか。


 それを決めるのは、

まだ先だ。

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