第17話 薔薇狩り

 今日は街への買い物の日。ミアと一緒に買い物へ行きブッチに城まで送ってもらっている。


 あれから買い物のたびにブッチにボディーガードを頼んでいる。

 子分でもいいのにと最初は思っていたが、ブッチはそれなりに顔も知れており、巨漢なのでそこら辺の強盗は姿を見ただけで逃げて行く。

 

 お陰で呑気に買い物が出来るようになった。

だからお礼にお酒や食べ物を渡している。


 今日もいつものようにお礼を言い、城に入ろうとしたところブッチに呼び止められた。


「ちょっと嬢ちゃん」

と言いながら手招きしている。


 ミアは先に中へ入って行った。


 不思議に思いブッチの元へ駆け寄ると、小声で耳打ちしてきた。


「ちょっと聞いたんだが、城の中にスパイがいるらしい。嬢ちゃんも気を付けなよ。

 王女の命を狙ってるらしいぞ」


 なんと……その王女が私なのだ……


 スパイか……なんかちょっとワクワクする響きなんだけどな〜

 自分の命が狙われてるとなると話が変わってくる。


 


 数日後、その話は忘れていつもの日々を過ごしていた。


 天気がいいのでミアと庭に出ることに。今日の私の警護はトニーらしい。


 庭に出ると庭師たちが花の手入れをしていた。 

その横を通り抜けると、薔薇園が目に映る。


「綺麗だね〜少し摘んで行きたいな」

「そうですね、何本か部屋に飾りましょうか」


 近くにいるトニーに声を掛ける。

「トニー、かごを持って来て〜薔薇入れたいから」


 トニーは「仕方ないな」と言いながら渋々城の中へ戻って行った。


 数本摘んだところで、庭師の男性が一人こちらに小走りで来ているのが見えた。


 あれ?摘んではいけない場所だったかな?

 そう思い庭師を見ているとどこか雰囲気が違う気がしてきた。


 だんだん近づくにつれ、右手の剪定バサミの持ち方が変なことに気づく。

 気づいたのも束の間、庭師がハサミを大きく振り上げた。


 一瞬だった。

 ザクッ!と音がして、私の右腕から血が流れた。

咄嗟に右腕で防御したからである。

 摘んでいた花々が散らばり白いバラを血が点々と染めていく。


 男は体勢を整えもう一度こちらへ向かってくる。


「メアリー様!!」

 ミアが私を庇うため私の上に覆いかぶさる形になる。

 その時、男がもう一度ハサミを振り上げた。


 危ない!!思わず目を閉じる。


 グサッという音と血しぶきがあがったようだ。


 目を開けると庭師の男の胸から剣先が飛び出ていた。背後からトニーが剣で突き刺しているのがわかる。


 ミアの背が男の血で染まり始める。


 それを見た途端ブッチに言われたことが蘇る。

 スパイのせい……?



 念の為ベッドで他に怪我がないかミアに見てもらい、右腕に包帯をしてもらっていた。

 トニーはベッド横の椅子に座りその様子を見守っている。


 その時、急いでいる足音と鎧の音が聞こえた。


 突然現れるフラン。

私の方は見向きもせず、真っ直ぐトニーへ向かっている。

 走りながら剣を抜き、トニーの頭上へ振り下ろす。


 カキーン!!という音が部屋中に響いた。


 トニーも剣を抜き、顔の前でそれを受け止めている。


 フランがトニーを睨みつけ口を開く。

「今日の警護担当はあなたでしたよね」


 お互い力を緩めようとはしない様子。剣が小刻みに揺れている。


「こんな傷つけられて警護出来てるって言えるのかよ!!」

 ばっと後ろに下がるフラン。またすぐに剣を構える。

トニーは何も言わず無言を貫いているが同じく剣を構える。


「こんな仕事しか出来ないならリーダー変わってやろうか」

 フランはまた飛びかかろうとしている。


「もうやめて!私がその場を離れてって頼んだの!」


 見ていられない。私がかごを取りに行ってと頼んだのが原因でもある。


「右腕だから命が助かったものの、心臓を一突きされてたら死んでたんだぞ!!」


 フランもわかっているのだ。仕方なかったことだと。

 わかっているが、どこにぶつけていいかわからない怒りの矛先を探っているのだろう。 


「フラン、心配してくれるのはありがたいけど、

今考えるべきはそこじゃない」


 アーシュを加え話し合いが始まる。

「問題はどうやってあの男が入って来たかですね」

 自分も怖い思いをしたのに冷静を取り戻しているミア。 


「ああ、トニーさんがすぐ殺すから情報聞き出せなかったもんな」

 フランはまだ怒りが収まらずピリピリしている。


「ここに出入りする業者を一回改める方がいいかもしれないな……」

 アーシュが力なく答える。


「入る時のボディーチェックも厳しくしよう」

 と、トニー。


 これで終わりではないだろう。王女という立場からまた命を狙われることがあるのは覚悟しておかなければならない。


 話し合いが終わり皆が出て行った後、トニーが私とミアの方へ来て深々と頭を下げた。


「今日は本当に申し訳なかった。警護担当として迂闊だった」


 逆にこっちがとても申し訳ない気分になる。

私が自分で自分の命を守れるくらい強くなれたらいいのだが。



 今日の庭師の男がスパイだろうか。それとも他に誰かいて手引きしたのだろうか……

 




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