第9話 勇者パーティご一行様(破滅の予兆)
ベルがエンド村に就職して3日後。カジノ『エンド・ラスベガス』は、今日もドワーフや近隣の冒険者たちで賑わっていた。だが、俺とベルだけは、カウンターの中でピリピリとした空気を纏っていた。
「……カイン様。来ました」 ベルが小声で告げる。
彼女の『未来視』が捉えた光景が、現実のものとなる瞬間だ。
バーン!! 入り口の扉が乱暴に開け放たれた。
「おいおい、こんな辺境に本当にカジノがあるなんてなぁ!」
入ってきたのは、煌びやかな鎧に身を包んだ金髪の青年。 背中には聖剣。その背後には、聖女、魔法使い、女騎士という、絵に描いたようなハーレムパーティを引き連れている。
勇者・アレン。王都で俺が逮捕した(そして権力でもみ消された)因縁の相手だ。
「いらっしゃいませ。当遊技場へようこそ」 俺は営業スマイルで出迎えた。アレンは俺の顔を見ると、眉をひそめた。
「あん? お前……どっかで見た顔だな」 「よくある顔ですよ。それより、魔王討伐の遠征、お疲れ様です。……息抜きに少し遊んでいかれませんか?」
俺は敢えて「魔王討伐」という単語を出した。アレンの顔が歪む。今の彼にとって、それは一番触れられたくない話題だ。王都での乱行が響き、世論の支持率は低下中。魔王軍との戦線も膠着状態。彼は今、**「ストレス」と「焦り」**で爆発寸前のはずだ。
「ふん……。まあいい。どうせ魔王城に行く前の暇つぶしだ」アレンはドカッと椅子に座った。取り巻きの女たちも、興味津々で店内を見渡している。
「アレン様、これなぁに? 回る絵?」 「ああ、王都で流行ってるらしいな。俺も話には聞いてた」
アレンは財布から金貨を取り出し、大量のコインと交換した。金払いはいい。だが、その目は「楽しもう」という目ではない。「俺は勇者だ。特別な存在だ。だから、この機械も俺を祝福するはずだ」そんな、肥大化した自尊心が透けて見える。
俺はベルに目配せをした。(プランAだ。最初は勝たせろ) (了解です……)
アレンがレバーを叩く。 俺は遠隔操作で、彼を**『天国モード(高確率状態)』**に設定する。
キュイン! ズドドドーン! 【7】【7】【7】
「うおおおっ!? いきなり当たったぞ!」 「さすがアレン様! すごーい!」
女たちの歓声。アレンは鼻高々だ。「見たか、これが俺の実力だ」と言わんばかりのドヤ顔。だが、彼は知らない。それが、これから始まる地獄への入り口だということを。
1時間後。アレンの足元には、3箱ほどのコイン(ドル箱)が積まれていた。 彼は完全に「王様気分」だ。
「ガハハ! 簡単すぎる! 俺にはカジノの神もついているみたいだな!」
だが、俺の『確率視』には、残酷なカウンターが表示されている。
【勇者の脳内興奮度:MAX】 【判断能力:低下中】 【次回より、『回収モード(地獄)』へ移行】
ベルが不安げに俺を見る。「……予知通りなら、ここから彼が『大ハマり』して、最後に台を破壊します」「ああ、分かっている」
俺は冷たいお茶を啜った。普通の店なら、ここで「これ以上は危険だ」と止めるかもしれない。あるいは、怖がって接待プレイを続けるか。
だが、俺は違う。俺は彼に**「現実(確率)」**を教える教育者だ。そして何より、彼が暴れることすらも、俺のシナリオ(事業計画)の一部なのだ。
「ベル。奥から**『あの書類』**を持ってきておけ」 「……え? まさか、本当にやる気ですか?」 「ああ。器物損壊は大した犯罪じゃないが……勇者相手なら、示談金はたっぷり取れるからな」
俺はニヤリと笑った。勇者が剣を抜く未来? 上等だ。俺は**「法律」と「借用書」**という最強の盾で迎え撃つ。
【勇者アレンの破産まで:あと2時間】
さあ、本当のショータイムはこれからだ。
(続く)
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