純喫茶『ナカマ』の店内には、静かな午後の時間がそのまま置かれている。木のテーブルややわらかな照明、どこか懐かしい調度品が、特別な説明もなく、そこに在るだけで落ち着かせてくれる。扉が開いて、カランコロンと音が鳴るたびに、少しだけ外の世界から切り離されるような気がする。
店長のナカマは、必要以上のことを語らない。けれど、その声や仕草には、長いあいだこの場所を守ってきたような穏やかさがある。コーヒーや料理が運ばれる時間も、急かされることはなく、思い出が自然に浮かんでくるのを待ってくれているようだ。
この喫茶店で起こる出来事は、派手でも劇的でもない。ただ、昔に確かにあった感情が、味や匂いと一緒に、そっと蘇る。それは喜びであることも、少しの寂しさであることもあるけれど、最後には不思議と胸の奥が温かくなる。
人は何で出来ているか?
もし、そう問われたのなら、僕は迷わず「想い」と答えます。
絵具を重ねるみたいに、人生と言うのは沢山の「色」を塗り続けます。それはきっと望んだ「色」ではないかもしれないし、きっとそうは思っていなかった「色」になる事もあります。
暗くて重い「色」になってしまったり、バラバラで掴み所のない「色」になってしまったり、きっと人生の色彩と言うのはどこまで行っても完成はしないから、とどまる事が出来ずにやりたくない「色」を重ねる作業かもしれません。
だけど、忘れ得ぬかけがえのない「色」だって生まれる事があって、それはとても素晴らしい時間で、きっとすごく大切な「色」なんです。だからこそ僕らは生きていけるのだと思うのです。
でも、そんな「想い」に僕らは違う「色」を塗り重ねてしまう。
人生で僕らは「何か」を見失う事がといても多いのです。
さて、本作です。
お読みなって頂ければ、きっと皆様の心の中にある「何か」に出会えるのではないかと思っています。そういう時間ってきっと大事なんです。
僕らはそうやって出来ていて、そうやってこれからも生きてゆくし、そうやって何かを乗り越えるし、そうやって誰かを愛せると思うんです。
お勧め致します。
皆様、宜しくお願い致します( ;∀;)
い、いい話だ……
どの話も心がじーんと温まって来る。「思い出をあたためる」っていうコンセプトが、本当にストレートに読者の心まであたたかくしてくれます。
純喫茶「ナカマ」ではお客さんのために「おもひで」を温めることをする。
それによって出てくるのは、「亡き母が作ってくれたケチャップライス」とかだったり。
もうこのアイテムの段階で涙がホロリときそうになります。
母の作ってくれた手料理の味。こればかりはどんなに大金をはたいても食べることができない。毎日のように当たり前に食べられていたものが、手の届かないものにも変わってしまう。
その尊さを改めて教えてくれるところで、もう強烈に心を掴まれました。
続けて出てくる人々の「思い出」も、またすごくあたたかく、そして前向きな気持ちになれるものの数々でした。
ああ、いいものを読んだなあ、と読後にしみじみと思いいらされました。ナカマさんのいるこの純喫茶とはどんなものなのか。それがわかるラストも秀逸。
心を温めてくれる、素敵な連作集でした。