紅蓮のブライ~外れスキル『温め』と鍛えた戦闘技術で戦う元冒険者。ただ、平穏に暮らしたいので今はアルバイトしてます~【お題フェス11温める】

八木崎

温めますか?



「お弁当、温めますか?」


 とある王国の辺境の街。

 冒険者ギルドなどが立ち並ぶ、大通りに位置する雑貨店。

 幅広く、何でも取り揃えているのがこの店の売りだ。

 棚にはポーションやロープ、食料品なんかが所狭しと並んでいる。

 そんな店の主である姉御肌の女――カレンが、にこやかな笑顔で弁当を受け取り、客に語り掛ける。


「じゃあ、お願いします」


「かしこまりました!」


 威勢のいい声で返事をすると、横を向いて隣に座る俺に視線を向けてきた。


「ほら、ブライ。仕事だよ」


「……はいよ」


 俺――ブライ――は小さくため息を吐きながら、右手でカレンから弁当を受け取る。

 ちなみに俺は元冒険者で、今はこの店のアルバイト。

 そして今日も今日とて、俺の外れスキルの出番ってわけだ。


「……ふっ!」


 意識を集中させて、俺は弁当に向かってスキルを発動する。

 右手から赤い光がパチっと弾けると、弁当の周りを一瞬で伝っていく。

 そして次の瞬間には、中身は温かい状態になっている。

 蓋を開ければ、たちまち湯気が溢れ出るだろう。


「ほら、できたぜ」


 温めた弁当をカレンに返すと、彼女は笑顔でそれを客に手渡した。


「ありがとうございました! またよろしくお願いしますね!」


 カレンが去っていく客を元気よく送り出す。

 完全に姿が見えなくなったところで、彼女はコキコキと首を鳴らす。


「ふぅ~、疲れた疲れた。やっぱり、この時間帯は忙しいわね」


「だな」


 俺はそう言って短く返す。

 それから懐に手をやり、タバコを1本……


「おい、こら」


 コツンと頭を小突かれる。

 見上げれば、怒りの形相をカレンが浮かべていた。


「店内は禁煙っていつも言ってるでしょ。いい加減、学びな」


「……へいへい」


 俺はタバコをしまうと、頭の裏に両手を回す。


「しっかし、相変わらずあんたのスキルは便利だね」


「ただの外れスキルだけどな」


「けど、私からしたら大助かりだよ。なんたって、うちの名物の1つだからね」


 ニッと歯を見せて笑うカレン。

 熱々の弁当をすぐに提供。しかも、料金はそのまま。

 この便利なサービスのお陰で、この店は儲かっている。

 そしてこの商売に必要不可欠なのが、俺の持つスキルである。


 スキル『温め』。その名の通り、温めるだけのスキルだ。

 右手に触れたものなら、何でも温められる。例外なく、な。


 最初にスキル鑑定士から聞かされた時は、愕然としたものだぜ。

 こんなクソみたいなスキル、どう使えばいいんだってな。

 まあ、この店においては、重宝される便利スキルなわけだが。


「さて、と。昼ピークが終わったことだし、次の仕込みに取り掛からないとね。じゃ、店番はよろしく」


 そう言うと、カレンが調理場へと向かっていく。

 彼女が料理をしている間、店番をするのが俺の役目だ。

 何も温めるだけが俺の仕事じゃないってな。


 すると、扉が開き、カランコロンとベルの音が鳴り響いた。

 客が来た合図だ。俺は立ち上がると、視線を入口に向ける。


「いらっしゃ――」


 そう言いかけて、俺の声が喉で止まった。

 店に入ってきたのは、俺にとって馴染み深い顔だったから。


 灰色に近い白の髪、皺が深く刻まれた顔立ち。

 立派な鎧に落ち着いた濃紺の外套がいとう

 そして胸元には金のエンブレム。

 この街の冒険者ギルド長だけが身につける徽章だ。


「よう、ブライ。元気そうだな」


「……いらっしゃいませ」


 俺がそう言うと、ギルド長――サザーランドは軽く口の端を上げた。


「相変わらず愛想の悪いやつだ。そんなんだと、雑貨店の店員としてやっていけないぞ」


「余計なお世話だよ。愛想担当はカレンの仕事だ。俺はただの温めと品出し担当。それで十分だ」


「クソみたいな店員じゃねえか。その辺のガキの方がもっとまともに働くだろうに」


「……ガキには温めは出来ないぜ」


「だが、温め以外は出来るだろうさ」


 ……それ以上、何も言い返せなかった。

 沈黙する俺を見て、満足そうに笑みを浮かべるサザーランド。

 彼はドカッとカウンターに寄り掛かると、コツコツと台を叩いた。


「今日はお前に用があって来た」


「だろうな。この店に用があるって格好じゃねえしな」


「話が早くて助かる。で、要件なんだが……」


 サザーランドはそう言うと、丸められた1枚の紙を俺に差し出してきた。

 一拍置いてから俺はそれを受け取り、広げてみせる。


「……依頼書、か」


「ああ、そうだ。お前にあるクエストを頼みたい」


 真剣な表情でそう語るサザーランド。

 俺はその依頼書の内容に目を通していく。

 書かれていたのは、簡潔な文面だった。


 ******


 ・依頼:ダンジョン攻略

 ・内容:行方不明者の捜索および救助


 ******


 俺は、依頼書から顔を上げた。


「……ダンジョン攻略に、救助任務か。ずいぶん物騒な内容だな」


「この街の近くにあるダンジョンなんだが……そこに潜った冒険者たちが戻ってこない。中堅パーティに救助へ向かわせたが、それすらも未帰還だ」


 サザーランドは深く息を吐いた。


「多分、何らかの異常事態が起きてる。こうなると、生半可な冒険者じゃどうしようもない。だから、腕の立つ冒険者が必要なんだ」


「なるほどな。だから、俺に頼むってか」


「そういうことだ。で、引き受けてくれるか?」


「……断ったら?」


 試すようにそう尋ねてみる。

 すると、サザーランドは視線を逸らさず、まっすぐ俺を見てくる。


「他に適任がいない。もっと被害が出るだけだ」


「……そうか」


 そう呟いた後、俺は乱雑に後頭部を掻いた。

 正直、やる気はしないが……仕方ない。

 臨時のボーナスが入ると思って、受けてやるか。


「おい、カレン!」


 俺は調理場にいるカレンに向けて、そう声を掛ける。

 彼女はひょっこりと顔を出すと、途端に不機嫌な表情を浮かべた。


「はぁ? ちょっと、なんなのさ。ギルド長がうちにやって来て……。さては、ブライを連れていく気だね」


「久しぶりだな、カレン。そしてその通りだ。ブライにはダンジョン攻略のクエストに参加してもらう」


「まったく、勘弁してよね。こいつがいなかったら、うちの売り上げが下がるんだ。こいつ自慢の温めサービスが出来ないからね」


「悪いが、諦めてくれ。それにその分の補填は、ブライに渡す報酬から差っ引いてくれればいい」


「……ふーん、なるほど。それは良い案ね。悪くない話だわ」


「おい、ふざけんな。人の報酬を勝手に奪おうとするんじゃない」


 俺抜きで盛り上がる2人を見て、俺はすかさず抗議した。


「まあ、とにかく事情は分かったよ。行くならとっとと行ってきな。それでさっさと仕事に戻りなさい」


「……そこはちょっとぐらい休ませてくれてもいいんじゃないか?」


「細かいことグダグダ言ってんじゃないよ。ほら、早く行きな」


 あまりにもブラックな物言いに、思わず絶句する。

 だが、抗議する余地は無いだろう。だから、受け入れるしかない。


「分かったよ。早々に片付けて、ここに戻ってくる」


「ああ、いってらっしゃい」


 カレンのその言葉に背中を押されながら、俺は店を後にした。

 ……さて、久しぶりの冒険者稼業だ。

 たまには温める以外のことも頑張らないとな。




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