年の瀬の雪の夜。
寒い夜に、たまたま出会った三人。
その出会いが、それぞれの人生を変えていく。そんな物語です。
新聞の集金に回るシングルマザー、万由子。
場面緘黙症を抱え行き場を失った青年、隆司。
焼き芋屋の老人、昭三。
三人とも世間の片隅に暮らす、どこにでもいる平凡な人たちです。
その夜、人生の苦境ある隆司の胸のうちに冷たい〝悪魔の声〟が響きました。
犯罪への誘惑です。
そんな邪な囁きを打ち消したもの。
それは正義の言葉でも力での制止でもありませんでした。
ただのありきたりの焼き芋。
その温もりだったのです。
本編には華々しいことは起きません。
物語は丁寧に、静かに事の顛末を描きます。
なにかを奪うはずだった手へ、温もりを受け渡たす瞬間。
そして、各人の未来へ希望が伝わるようすを表します。
大げさでも、強くもない。
ただ読む者に、じんわりとした温もりが伝わる。
そんな暖かい物語でした。