第29話 不死兵

 平穏な日々が数日過ぎたとある日、グレイルを指揮官とした二個小隊が町を出立していた。

 レイが騎士団所属の時に直接鍛えた精鋭ばかりということもあり、出発を見送った町の人々の表情も不安で暗く町全体の活気を失いつつあった。

「脱走兵一人に、少しばかり大げさじゃないか」

 いつも通り修練をしていたミルコの言葉に額に汗を拭っているクルスが。

「身体強化ができる人型の獣がこの町周辺地域にいると考えれば、レイが鍛えた連中が十人とは言っても不死兵の強化深度次第では危ないだろうからこれでも足りないはずだよ」

「そんなにか?」

「ミルコ、まだまともに制御できていなかったお前が少し強化しただけでデーモンの攻撃を受け止められたことを忘れたのかい。不死人として少し訓練したミルコでそのレベルであることを踏まえると脱走したとは言え神聖国とドンパチしていた不死兵なのだから足りないと考えておいた方がいい」

「だが純粋に力が強いだけなら……」

「ミルコ、腹に風穴が空いた時にお前は痛覚を感じた?動きは鈍くなった?」

 クルスの言葉にミルコは言葉を詰まらせる。

 湖のデーモンと戦った際に攻撃を受けて腹部に大穴を開けられた際に痛覚自体は存在していたが、負傷の度合いに対してその痛覚はミルコが無視出来てしまう程小さかったことは事実なのだから。

「神聖国で行われていた見世物としての不死人が行う闘技場ではそれほど例は多くなかったようだが頭部が半分削られても戦闘続行できた不死人がいるって話もある、聞いただけだから信憑性は薄いけれどミルコの件を鑑みれば完全に否定できる内容でもないことはわかるだろう……ダメージを与えれば動きが鈍るという常識に囚われている人間の場合そこに足をすくわれる可能性は十分ある」

「だが痛覚はないわけじゃないし、関節を斬られたらそこから先は動かせなくなるのは間違いないだろ」

「それも事実ではあるが、そこで問題になるのが身体強化の部分になる」

「まさか……」

「瘴気を含む超自然的な力を身体強化の要領で神経と筋肉の代わりにできる、これに関しては古い呪術師が実際に使っていた事例があるし何だったら私も使える……最も脳の代わりとかにはならないから流石に頭を全部吹き飛ばされれば無理だろうし何より不死人が身体強化ができるとは言ってもその練度は千差万別、神経操作までできる手合いはそこまで多くないとは思う、多分、きっと」

「最後なんで自信を無くすんだ?」

「聞き取りと観測だけじゃデータとして足りなさ過ぎてね、生きた実データなんてそれこそミルコと私の経験則しかないから仕方ないの!」

 慌てて言い訳をするクルスに対し落ち着くようにミルコが言葉を発しようとしたその時、遠くの方から爆発音が聞こえてきた。

「なんだ!?」

 音の方向に二人は視線を移動させると、白と黒の煙が混ざらないくらいの距離に上がっているのを確認し。

「ミルコ、どうする」

 クルスの真剣な表情での質問。

「……避難誘導に参加する、対処は便利屋がやらざるを得ない状況になったらでいい」

「わかった、現場に向かって避難誘導でいいね」

 ミルコは首を縦に振り、クルスと共に駆け出した。

 騎士団も駐留しており、相応の防壁に守られているこの町では緊急時の避難場所としていくつかの建物が指定されている。

 防衛拠点として運用される領主の館や騎士団駐屯地は避難所にならないため、冒険者ギルドと便利屋ギルドの二か所を民間人避難所として開放されることになっている。

 ミルコが真っ先に避難誘導を行うと言ったのはその取り決めの部分が大きいのだが、爆発音が聞こえたにも関わらず町民の移動はあまり目立っていない。

「爆発音が一つに煙が二つ、黒煙があるのに町の人が逃げない理由は何だと思う」

「最近俺たちが修練するときに炎で練習をやりすぎたからだろう」

「慣れか……」

 自分たちが原因であることは一旦棚に上げて防壁の門へと向かう。

 門に近づくにつれ逃げ出してきた人とすれ違う頻度が増え、聞こえてくる音は打撃恩と悲鳴が多くなり人ごみの中に泣いている子供を見つけたクルスは。

「ミルコすまん」

「その子は任せた」

 ミルコも子供は確認していたものの最初に気づいていたクルスに任せて門のある広場に飛び出した。

 ミルコの視界に映る門前広場の光景は酷いものだった。

 血の匂いは濃くないものの火薬の匂いが濃く最初の爆発音は門番が敵対者に対して樽ごと爆破したのだろうが爆発で倒すことはできず返り討ちにあってしまい……避難を促すのろしを上げることしかできなかったようで、ミルコが確認できる範囲でも行商人と思われる身なりの死体が転がっている。

 そして広場に立っている一つの人影。

 折れた剣を握りところどころに打撃を受けへこんでしまった鎧と兜を身に纏った兵士。

 不死の脱走兵がそこに立っていた。

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