第26話 レイス国

 かつて世界の中心とまで言われた神聖国。

 今ではその面影は荘厳な建造物にしか見られず、街中に存在していた神を模した像はそのことごとくが破壊されつくしている。

 実際に神が存在し、その住まいとなっていた神殿も不死人たちを先導し神聖国を滅ぼした英雄、不死達の王であるレイス王の居城となっていた。

 その居城の会議室にて二十名程の不死達が顔をつき合わせていた。

「各施設の修復状況の報告を」

 上座となる最奥の椅子に座っている青年が最初に声を発し、それに応えて各々が口を開く。

「まず元神殿、この建物に関してだけど住居区画を優先したため政治的な機能は正直ここと執務室しか直せていない」

「最低限執務が出来ればいい、居住能力を高くして不死人の受け入れ可能数を増やしたい」

 最も会議の行われているこの部屋に関しても半年前の争いでの血肉による汚れ、剣戟による柱や壁の傷も目立ち最低限の修繕すら行われていない。

 ここでの戦闘が小規模だったからたまたま利用できる範囲での損傷で済んでいるだけ。

「次は街中の清掃に関してですが、半分も終わっておりません。住人全員を駆逐したことにより死体を焼くことすら間に合っていないのが実情です」

「不死人に融和的な人間は生かしていたはずなんだがな」

「この街は元々が神聖国の膝元、神の居城では殆どが不死人迫害をしていた連中だったからな」

「だから私は神を殺したのだ……街から逃げた人間は見逃すように通達していたが徹底できていなかったのは私の未熟さ故だろう」

 不死人による宣戦布告からの虐殺は街全体に及び、街から逃れられた者も統制の取れていない不死軍の追撃で戦えない融和的な対応をしていた民間人も虐殺された。

 レイス王は虐殺を命じたわけではない。

 しかし不死人が現れてから蜂起までの間に行われた迫害によりリーダーであったレイス王の能力では統制を取ることなど到底不可能だっただけである。

 当然ながらこの虐殺により現在のレイス国は国家樹立宣言を行ってもそれを容認しない国が殆どであり、被差別層であった不死人の大半は民間人であったことからまともな外交も内政に必要な能力も持ち合わせていないため比較的友好的に使節団を送ってきた魔法王国との会合しか外国との繋がりが存在していない。

「その時脱走した連中が各地で暴れているから唯一繋がりがある魔法王国からも国として認定されない……やはり脱走兵に関しては厳しく処罰した方がいいんじゃないか?」

「その具体的な案は、不死人は首を落としても無意味だぞ」

「普通ならな、でもあんたなら殺せるだろレイス王」

 不死人を殺す方法は実のところ複数存在している。

 魔法王国が研究の結果導きだした手段は不死人個々人により違いがあり困難を極めるが、最も簡単な手段は神の祝福を直接叩き込むこと……レイス王は神聖国に実在していた神を殺し、そのエネルギーが龍脈に戻る前に吸収したため神の力を用いて不死人を殺すことも可能ではある。

 しかしそれは同時にレイス王自身がその神の力に蝕まれ自らも殺してしまいかねない力。

「まだ扱い慣れていない……修練するのも命がけでな」

「不死なのに不死を殺す手段で自殺しかねないのは皮肉だな」

「だからやるとしても脱走兵の蘇り地点で燃やし続けることくらいしか確実な手段がない、自分たちの街すら修復できていない現状では物資も人も割けない」

「じゃあ外交回りは他国にお願いするでいいの?」

「やってくれるのか?」

「難しいとは思うけれど、やらざるを得ないでしょ……今この街に居ない不死は現地の法に乗っ取って対応してくださいくらいしか私たちに余裕がないのも事実であちらとしても対応しなければ自我を失いつつある不死に国を荒らされるわけだし」

 会議、という形はとれているものの完全にまともな議論ですらない会話にレイス王は頭を抱える。

 本来ならもっと計画を練り、準備をしてから反乱を起こすべきだったことはこの会議に出席している不死たちは全員理解している。

 だが彼らにはそれができる時間も環境もなかった。

「もっと時間があればもう少し……」

「あれ以上耐えられなかった、あのタイミングじゃなかったら脱走兵たちみたいな連中がもっと増えて……この街の住人皆殺しだけじゃ収まらなかった!」

「わかってる、だからこそ俺たちはやらなきゃいけない」

 神聖国による不死人への迫害は周辺諸国から見ても酷いものであった。

 だからこそ不死人たちが反乱を起こした際介入をしなかったのだが、その際発生した民間人虐殺についてはやりすぎであったために自国内の不死人に対し安全に暮らせるための不死人研究への参加の義務はあれど人権を認め共存関係を取った南方にある島国ですら非難の言葉だけで中立の立場を維持するのが限界だった。

 そんなレイス国に使節団を送ってきた魔法王国ですら国交は無し、反乱戦争時の虐殺は非難すべきとしながらも不死人の研究を人道的な範囲で行うために出入りする程度で、民間人交流は徹底して拒否している。

「中立に近い立場を取っている国が二つもある時点で俺たちにとっては幸運って言える……少なくともこの二か国には脱走兵の処理について優先的に情報共有していく方針でいく」

 レイス王の言葉に一同首を縦に振る。

「全員同意なのを確認した、それじゃあ皆仕事に戻ろう」

「資金や物資の確認は?」

「……悪い、考えることが多すぎて忘れてた」

 外交という課題のことで思考が占有されたレイス王は会議を終わらせようとして、経済を担当している会議参加者に咎められる。

「しっかりして……と言うのは簡単だけど一度ゆっくり休んでもいいと思う、それはそうと資金や物資に関して配った資料に書いてあるものが全てだから皆確認して」

 経済担当の参加者が促すとレイス王も含め机の上に置かれていた資料に目を落とす。

「……資金、これ嘘じゃねぇだろうな」

「残念ながら事実、私たちが破壊した建造物……神像を除いたものを修繕しようとしたらそれくらい軽く吹き飛ぶ」

「だけどこれは相場ではないのでは?」

「虐殺した不死人達、脱走兵を出し統制が取れていない統治者たち……信用情報があまりに壊滅的すぎてこれでも交渉で相場にかなり寄せれた数字なの」

「交渉相手は……聞くまでもないか……」

「魔法王国は難民としての不死人の町の建造をするという名目、既に不死人の町がある南方島国は輸送コストも合わせてこっちへの同情価格でしょうね……正直世界全体の私たちへの印象からしたら南方島国は味方とまで言えるわよ」

 もちろん確実な味方と断言できるわけではない。

 元々不死人と共存していた国であれば彼らの境遇に対し同情的なのは必然であったし、虐殺への忌避感も相当な物である。

 虐殺は容認できないが、これ以上追い詰められればその怒りが無差別になることへの恐れからの友好なのはレイス王含め数名の不死人たちも理解している。

 しかし会議に参加している不死人の中にもそれすら理解できていない者がいる程レイス国は人材が枯渇状態。

「食料は最悪少数生産で行けるとは思うが……」

「不死人にも餓死の概念があるから無くすことはできないぞ」

「食べなくてもいいのであればまだマシだったのに……」

 不死人にもそうなる以前の生理的欲求が存在している。

 食事の回数を減らしても特に問題はなく栄養にこだわる必要もないが、それでも空腹感は存在しておりそれを無視し続ければ当然ながら餓死する。

 例外は神の力を取り込んだレイス王。

 彼は既に人間の領域から逸脱してしまった不死人であり、神の力を取り込んだ際にその性質は人に近い不死人とは逸脱したものとなっていた。

 不死人たちを解放するために人を捨てたからこそレイス王としてレイス国の不死人達から敬われている。

 彼はそれにこたえようと必死なだけ……なのだが、それを理解しているのは不死人となる以前から仲間であった数名だけなのであった。

「食料に関しては損傷の激しい建物を壊して石材に戻しつつ、そこを畑にする」

「これから冬……何を育てるつもりだよ」

「土を育てないといけないからクローバー……後はカブで何とか回す」

「それじゃあ絶対間に合わないぞ」

「……狩りに心得のある人間は」

「数人、だけど本格的な冬までにどれくらい確保できるかはわからないし熊が出てきた場合何度も死にながらになりかねない……」

「本職の狩人出身が居ても厳しいことになるだろう、だがやるしかない……食料の買い付けは厳しい以上は……」

「神聖国の衛星都市に提出させることは無理なのかよ」

「脱走兵が暴れた後だよ、生き残ってても私たちに提出すると思う?」

「虐殺の上に略奪……はもうついているだろ」

「ついているからこれ以上増えないようにしたいってさっきの外交回りで言った通りだよ」

「じゃあ殆ど詰みじゃねぇか」

「その状況をどうするかを決めるのがこの会議だ」

 その認識すらできない者でも責任者として徴用しなければいけない。

 レイス国の議会という名の場当たり会議は毎回こうなり……半年になろうとしていた。

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