静かで淡々とした語り口の奥に、じわじわと狂気が滲み出してくる……そんな強烈な読書体験が味わえる作品です。
物語は、ある家庭の中で積み重ねられてきた「言葉」と「関係性」を丁寧に辿っていきます。一見するとどこにでもありそうな親子関係。しかし、そのやり取りのひとつひとつが、主人公の内面を確実に蝕んでいく様子が、非常にリアルに描かれています。
特に印象的なのは、「正しさ」と「愛情」がすり替わっていく過程です。何が本当で、何が歪んでいるのか……読み進めるほどに、その境界が曖昧になっていき、気づけば読者自身も不安定な足場に立たされている感覚に陥ります。
そしてタイトルが示す意味が、読後に少しずつ浮かび上がる構成もお見事なんです。物語全体を通して張り巡らされたテーマが、最後に静かに収束していく感覚は圧巻でした。
派手な展開に頼らず、人の心の深い部分に切り込む作品を求めている方には、ぜひ手に取ってほしい一作です。
読み終えたあと、しばらく何も考えられなくなるような、そんな余韻が残ります。