第12話 決闘


──放課後



「とまあ、番長さんよ。ようやくこれでお膳立ては整ったはずだ。遠慮なくやりあおうぜ」

「ちょっとワタリ君!アンタ、昼休みに言ってたのと違うじゃないの!?大勢の前で"対話する"っていうから、準備したのに。ケンカするつもりだったの!?」


 校庭のど真ん中に急遽用意された、クソデカなイベントブースには、本当にいつの間に準備したのか『公開討論企画。近現代における不良生徒の在り方について』という垂れ幕がかかっていた。


 登壇すると、開口一番宣戦布告したのがルイの今のセリフである。

 キョウが「話が違う」と非難するのももっともだ。


(とは言ったものの、俺様もまさかここまでギャラリーを集めちまうとは思っていなかったけどな。さすが、獅子門シシカドキョウだぜ……)


 ヤル本気ガチの生徒会長の呼びかけに応じて、なんと校庭に全生徒が集結し、ルイ千里センリの対決を見守っていた。

 目立つのが嫌いな生徒であれば卒倒しそうな状況ではあるが、ルイは堂々としたものである。


 しかし──


「……」


 対する番長──千里センリのほうはそうではなかった。

 小刻みに体を揺らしては、落ち着きなく周囲を見渡している。


「武者震いってやつか、いいだろう。とっとと始めようじゃねえか」


 腕を鳴らしながら近づいてくるルイに、千里センリがとったリアクションは昼間と同じであった。

 つまり、不戦の構えである。


「どうした、こんだけギャラリーがいても不満だってのか?んなわけねえよな?」


 ルイの挑発に、千里センリは小声でこう切り返す。

 高性能な収音マイクだったはずだが、それを聞き取れたのはルイ一人だっただろう。


オレが興味あるのは、こんなところではない。貴様の、貴様が戦う戦場だ」

「んだよ、そりゃあ。ツラを貸せって言ったのはお前のほうだろうが」


 またも肩透かしを食らった様子で拍子抜けしていると、今度は校門の入り口のほうから爆音が鳴り響いた。


 ドルルン!! ブオンブオオオオン!! パラパパラパ


 安っぽい下品なエンジン音が校庭になだれ込んでくる。

 バイクに乗った暴走族の集団であった。


「みんな、急いで構内に避難して!」


 危機管理は徹底している。キョウの号令で、生徒たちは見事な統制を保ったまま校舎に避難していた。


 たった二人を除いて。

 その二人──壇上に立つルイ千里センリを、暴走族は完全に包囲してしまっていた。


「テメエ、コラ。あれだけのことをしておきながら、よくも俺たちの前に顔を出せたな、コラ」

「……顔を出したの君たちのほうじゃないの……ゴホ」


 隅っこで冷静に突っ込みを入れるムセビを完全に無視して、族のリーダーと思しき男が二人の前に立つ。

 

「このまえの喧嘩じゃ、俺の手下どもをずいぶんと可愛がってくれたらしいじゃねえか。転校したと思ったら、こんな平和な学校にきてどういうつもりだ、コラ!?」


「……あれは、不可抗力だ。オレがケンカを売ったわけじゃ、ない……」

「んな言葉を信じられっかよ!?こっちは何人病院送りにされたと思ってんだ。その気がありませんでしたって言われて納得できるわけがねえだろうが!」


(なんだ、この番長。前の学校で問題起こして転校させられちまったのか?)


 転校させられる、しかもここにいるような暴走族がらみの不祥事ともなれば、相当のものだろう。

 反射的に、どれほどの不幸が巻き起こったのか興味がわくルイであった。


「……謝罪はする。だから、帰ってくれ」

「んなことで済むわけねえだろうが!」


 ブブブブブブオン!!


 族長の言葉にシンクロするように、周囲のバイクがエンジンをふかす。

 舞台装置としてはなかなかの演出効果である。相手がこの二人でなければ、さぞかし恐怖をあおれたことだろう。


(さて、ここはどうやって切り抜けたもんか……ん?)


 これだけの人数にボコボコにされるのであれば、さぞかし不幸な目に会うに違いないと思いを巡らせているルイの視界に、不意に見慣れた何かが飛び込んできた。

 バイクの隙間から、まるで周囲の音圧に押し出されてきたように、手のひらサイズの小さな毛玉がステージ前に転がってきたのだ。


「お前──"小柄"じゃねえか!?まさか、あの籠を抜け出してきたのかよ!」


 これはルイのミスだった。小柄なモルモットの体型と、おおざっぱに作られた鳥かごの寸法を読み違えたのだ。

 もともとモルモットは好奇心旺盛な生き物である。普段と違うがやってきたことに興奮し、後先構わずに突っ込んできたに違いない。


「バカ!こんな奴らの前に出てくんじゃねえよ!殴られ慣れてる俺様ならいざ知らず、貴様みたいな脆弱なやつはあっという間に──」


 慌てて"小柄"を捕まえにいくルイ

 だが、話の最中にちょろちょろする部外者の無礼な動きに、族長は痛く機嫌を損ねたらしい。


「テメエゴラ!俺様が話をしてる最中だろうが、よ!!!」


 背中に忍ばせた金属バットを頭部にフルスイング。暴力に慣れたものとは思えない蛮行である。下手をしたら、にまで慣れているのではと疑いたくなるほどに躊躇がない。


ルイ!」


 ムセビが悲鳴を上げる。

 流石の彼も、この時ばかりはさすがに死を覚悟した。


 だが──


 ごう


 一陣の風と共に、丸太のような右腕が一瞬で族長の顔面にめり込む。

 あろうことか、振り上げた金属バットごと、であった。


「へ……?」


 これはさしものルイも呆気にとられるしかなかった。

 とんでもない腕力、というか、頑強すぎる肉体のほうが脅威である。


「ふざけんじゃねええええええええ!!!」


 さっきまでの物静かで落ち着いた様子とは打って変わり、激昂して暴れまわる千里センリ

 一撃必殺とはまさにこのこと。一人一発で確実に意識を刈り取っていく。


 バットで武装していようと、相手がヘルメットをしていようと、恐慌してバイクで逃げ出そうとお構いなし。

 バットはへし折り、ヘルメットは貫通。バイクには追い付いてしまっていた。


 ものの数分で、校庭は一方的な殺戮の現場へと変貌を遂げたのだった。


「ぜえ……ぜえ……」


 すべてが終わって、荒く息をする千里センリ。当然ながら、その両手は血で濡れていた。


「……」


 絶句していたのは、ルイだけではなかった。

 そのを、全学年、全生徒が目撃していたのだ。


「やだ。怖い……」

「なんだよ、あれ……やばすぎんだろ」

「何人か死んだんじゃない?」

「マジ……?」


 恐怖はあっという間に校舎を駆け巡っていく。


「誰か警察呼んで!私たちも殺されちゃう……!」

「やべえって、だれだよあんな奴をこの学校に入れたのは……」


 恐怖は、一転して排斥の念へと変貌する。

 学校中の生徒からの嫌悪の視線が、大柄で武骨な高校2年生に集中していく。


「……フ」


 それだけ呟くと、千里センリは生徒たちの願うがまま、校庭を後にする。


「邪魔したな」


 最後にそれだけ告げて、校門に向かって歩みだす。


 その時──

 一番近くにいた涙だけが見ていた。


 千里センリいわおの様なまぶたの奥に潜む、鷹のような鋭い瞳から一筋──一粒のナミダがこぼれるのを。


 グルルルルル……


 それと同時に、ルイのお腹にチクリと痛みが走った。


(まさか……共鳴?)


 無言で校庭を去っていく番長の背中を見ながら、涙は愕然とした表情でこう呟くのだった。


「まさかあの野郎。あれだけの強さを誇っておきながら、俺様よりも不幸になるつもりじゃねえだろうな」


 相変わらず、妙な対抗心に燃える我らが主人公であった。



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