第32話「神託」

「どうしたもんか……」


足元に横たわる4人の姿を見て、呆れ返る。

すぐ近くから、「侵入者はどこだ」「足跡があるぞ」と魔族の声が聞こえてくる。

アークら4人を『数学者』スキルで生成した板に載せると、板にかかる重力をいじって背後に浮かせてみせた。


「『数学者』座標表示」


立体地図が0と1で表示されて、ジルは真っ先に驚いた。


(範囲が……広がっている?)


ジルが『数学者』スキルの第四段階を解放した事により、スキルの有効範囲が半径100mまで増加したのだ。


(ん……これは町か? とりあえずギルド支部があればいいんだが)


ジルは座標上の村を指先で軽く押し、「確定」と呟いて村まで瞬間移動した。




フェルウェード帝国領


「よし、成功だな」

(まずは宿にこいつらを置いてからだな)


ジルは"グッタラー"と書かれた看板を見て町の中に入った。

静けさが彼を襲う。

町の中に吹く風の音しか耳に入ってこない。


(何だここは……)


宿の部屋を一つ借り、4人をベッドにそっと置いて部屋を後にした。



冒険者ギルド グッタラー支部


「いらっしゃいませ〜 支部長は留守です〜」

「……通信魔道具を貸してくれないか」

「え〜っとぉ まずぅ、あなたがどこのどなたなのかぁ、分からないのでぇ、ギルドカードを提示して頂けますぅ?」


ネチャネチャとした喋り方に、ジルは何故この町がグッタラーという名前なのか分かった気がした。

ジルは咳払いをすると、鞄から自身のギルドカードを取り出してやる気皆無の受付嬢に手渡した。


「あぁ〜 犯罪しゃ…指名手配はん……」

「A-ランクのジル=アードストールだ。皇城とギルド本部に繋いでほしい」


ジルはきっぱりと言い切った。


「らじゃ〜」


受付嬢は気怠げに告げると、奥の部屋を指差した。


「あちらが支部長室ですのでどうぞ〜」

「いや、使い方が分からないんだが」

「マニュアル読んでください〜」

「魔力無いんだが……」

「あらあら〜」


ジルは呆れたように耳の裏を掻く。


(いや……いけるのか? 魔力を込めるだけなら、理系でも……《現実演算》で)


「やっぱりいい。何とかしてみる」

「それは良かったですぅ」


受付嬢は、カウンターで寝落ちてしまった。

ため息をこぼしながら、先程指を指された扉に手をかけた。



支部長室に入るなり、『お待ちなさい』と頭の中で声が響いた。

ジルは後ろを見るが誰も居ない。


「誰だ」

『私は……この世界の女神と呼ばれる存在』

「……は?」


ジルの戸惑いを置き去り、女神と名乗る声は彼を真っ暗な空間へと呼び寄せた。


「何が起きている?」

(光の屈折率を捻じ曲げた? いや、そんなレベルじゃない)

「『数学者』、座標表示」


何も起こらなかった。

スキルが発動されない。

異様な状態に、ジルの肩が震える。


『ここは"虚数空間"、ありていに言えば、虚空と呼ばれる場所です』

「あんたは俺を殺したのか?」

『いいえ、貴方の生は保障されています』


青く長い髪を垂れ流す女性。

木の椅子に腰を下ろし、足先を絡めている。

彼女の首元に薄らと、鎖が絡まっているような影がある。


「……ウル教のこと民度低いって言って悪かったな」


ジルは、アードストールの王城でミリアに対して発した言葉を訂正した。

女神を名乗る女性は『よろしいのですよ』とジルを宥めた。


『ただ……貴方がこれから実行しようとしている事は、世界の根幹を揺るがすものとなります』

「どういう事だ?」

『貴方は、自身の魔力量をスキルによって、0から増加させようとしていますね?』

「理論的には可能だ。『数学者』スキルを第四段階まで解放したから現実の数値を書き換え……」

『私は、女神として、理の管理者として貴方を諌めます。"直ちに"、実行に移すのをやめなさい。貴方が数学者なら分かるでしょう……ゼロ除算を現実に適応する事の恐ろしさが』



ジルがハッとなったのと同じくして、真っ暗な空間から解き放れた。

彼は再び冒険者ギルドのグッタラー支部、その支部長室前に立っていた。


(起こすか)

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