終末世界の開拓記

なづきち

第〇章:チュートリアル

メイキングマスター

「これで最後……の、はず」


 緊張で手が震える。喉がカラカラになって舌が張り付いてしまったような感覚がする。

 どちらも、VRバーチャルではありえないはずなのに。


「牙から武器は作った。鱗から防具を作った。角から万能薬を作った。肉から料理も作った。

 あとは……これを加工するだけ」


 わたしは手に持ったそれ――【ウロボロスドラゴンの魂】を見つめる。


 長かった。ここまで、本当に長かった。




 一人用フルダイブVRゲーム『ワールドメーカー』。分類としてはボクセルスタイルメイキングRPGとなる。

 プレイヤーは世界を作った神様、創造神の力の一部を与えられた神子となり、創造神と敵対する破壊神に支配されてしまった世界を取り戻す、というのがこのゲームのメインストーリーだ。

 ストーリーを進める方法は、モノ作りをすることで世界に創造神の力を満ちさせる、細々と生きる住民を助け発展させる、破壊神の手勢――モンスターを倒していく、この三つに大別される。


 なお、わたしはとっくの昔にメインストーリーは終わらせている。むしろ終わった後が本番だ。

 何せこの世界を構成する全て、草や土や石、木に水に食べ物はもちろん、モンスターすらモノ作りの素材であり、その種類は軽く千を越え、それら素材から作成できるアイテム数はかなりのものだ。

 一般的に想像できるような武器や防具、アクセサリ、回復アイテムや攻撃アイテムはもちろん、単なる色違いや形状違い、属性違いだけでなく、手順によって違うアイテムになったりと、あらゆるパターンを考えればそれはもう数えるのも億劫なほどに膨大なものとなる。


 建築アイテムや内装アイテムも存在しており、組み合わせることでプレイヤーの拠点も自分で作ることができる。

 どの素材を使うのか、間取りはどうするのか、何を飾るか……建築アイテム以外を使ったっていい、全てが自由なのだ。

 こぢんまりとした一軒家から巨大なお城まで、プレイヤーの想像力次第で何もかもを作ることができる。


 わたし、秋月璃音リオンもその自由なモノ作りに魅せられてゲームを始めた一人で、数年間に渡りプレイし続けている。


 ちなみに、ボクセルとはVolume(体積)とPixel(ピクセル)を組み合わせた言葉であり、簡単に言えば立方体の集まりで作られた世界ということになる。

 全てではないけれど多くの素材が立方体で存在しており、地面を掘ると地面に四角い穴が開いて土でできたサイコロが、岩山を掘ると岩肌に四角く穴が開いて石でできたサイコロが手に入るといったような感じだ。

 もちろん加工して別の形にもできるけれど、この立方体という制限を抱えたままモノを作るというのも楽しみ方の一つである。


 モノ作りのためのスキルも多彩に存在する。採掘、伐採、農業、細工、料理、鍛冶、etc. etc. ただ作成用スキルは数あれど、直接魔法を使うスキルや攻撃用スキルは一つもなかったりする。プレイヤースキル(これはシステムで用意されたものではなくプレイヤー個人の資質を指す)やアイテム頼りだ。

 スキルに関する行動をしなければスキルレベルを上げることはできず、一つのスキルレベルをMAXまで上げることすら結構な苦行であるのだけれども、わたしは全てのスキルレベルがMAXになっている。

 ……そもそもスキルレベルを上げなければ作れないモノ、素材として入手できないモノもあるので自然と上げざるをえない。


 また、一人用といっても同じソフトを持っていてフレンド登録をすれば、お互いの世界に遊びに行くことができる。

 わたしもちょくちょくフレンドを呼んだり、逆に呼ばれたりしていた。

 苦心して作った自信作を自慢したり、させられたり。一緒にモノ作りをしたり、素材を探しに冒険をしたり。

 何をするのも楽しかった。


 けれどそれも時が経つにつれて、一人、二人ゲームを辞めて減っていき……やがてはわたし一人となった。もちろんネットで探せばまだまだプレイしている人は居るけれど、わたしは新たにフレンドを探す気にはならなかった。

 それでもわたしは世界を巡り、モノを作り続けた。

 多くの人が挑みながらも、あまりのアイテムレシピの多さに諦める人も続出した『全てのアイテムを作る』という実績を達成するために。


 そうして独りで挑んだのは、ゲーム内の隠しボスにして最強のモンスター。


 ――邪竜ウロボロスドラゴン。


 初めて挑んだ時は瞬殺された。二度目どころか、何度も何度も返り討ちにあった。

 これじゃダメだといったん挑戦を中断し、時間をかけてわたしはこれでもかというくらい準備を重ねた。

 武器は最強のオリハルコンの剣を作成した。切れ味、耐久、聖属性、付けられる全ての追加効果を付与エンチャントした。

 防具は全てのパーツを最硬のメテオライトで作成した。これもエンチャントしまくった。

 回復アイテムを大量に作成した。一時的に攻撃力、防御力などがあがる補助アイテムも作成した。魔法を打ちだすスクロールや、爆弾などダメージを与える道具も作成した。

 アイテムボックスがパンパンになるまでモノを作った。プレイヤーは作ってナンボなのだからね。

 攻略サイトを何度も読み、他プレイヤーの動画を視聴し、立ち回りの確認のために殺されるとわかりながら挑んだこともあった。

 ……とあるサイトには『どう考えてもこれはマルチプレイ前提の難易度だ。一人ソロで挑むのは時間の無駄でしかない。難易度設定したの誰だよボッチいじめかよバカヤロー』なんて書かれていたりしたけど、わたしは「絶対にソロ攻略してやる!」と意地になっていた。


 長い長い準備期間を経て、「これで勝てなきゃ辞めてやる!」くらいの意気込みで挑戦をした。

 そして……一時間を超える激闘の末、ついにウロボロスドラゴンを倒すことに成功したのだった。


 ギリギリもギリギリだった。装備品は最後に握っていた剣一本を除き予備も含めて全て耐久値を失って破壊され、攻撃アイテムは使い果たし、回復アイテムは九割九分消費した。

 どれもこれも素材さえあれば再生産できるものとはいえ、掛かる時間と労力を考えると途方もない。「割に合わない!」と思うプレイヤーが大多数だろう。

 何でそこまでして挑んだかって? もちろん、倒さなければ手に入らない素材があるから、素材がなければ作れないアイテムがあるからだ。そもそもロマンを追い求めるタイプでなければここまでやらない。

 そしてこのウロボロスドラゴンの素材を使ったアイテムを作成すれば、ついに全レシピが作成済みとなる。……はず。


 牙から武器を、鱗から防具を、角から万能薬を、肉から料理を。

 そして最後に。


「魂から、アクセサリを。

 ……作成メイキング!」


 作業台に手をかざし、スキルの発動と共にわたしの手から光が溢れる。と、同時にシステムメッセージが浮かび上がった。


<< アイテムを一つ選択、追加してください。 >>


「え? なにこれ? こんな情報あったっけ?」


 解放レシピを確認してもウロボロスドラゴンの魂だけで作成できるし、情報サイトにもそう書いてあった。最強ボスの素材から作成されるアイテムなだけあって、もう一つアイテムが必要だなんて重要そうな情報が攻略サイトから抜け落ちるなんてことは……うーん、ネタバレを自重した?

 選択に失敗してもう一度素材取り直しとかになったら嫌だなぁ……いやでもそこまで致命的ならさすがに情報載るかな……?


「……まぁいっか、これでいこう」


 作成を中断して情報を収集するべきか悩んだけど、わたしは直感に従ってとあるアイテムを選択した。




●ティアドロップ

 創造神の力が微かに宿る石。涙の形をしているのは喜びか悲しみか。




 数年プレイして二つしか手に入らなかったアイテム。

 一つはもちろんアイテムの素材となった。創造神にまつわるアイテムレシピ解放のためのキーアイテムだ。

 もう一つは同じアイテムを作っても意味がないなぁと思ってずっと保留にしていて、結局今の今まで使いどころがわからずアイテムボックスの片隅に眠り続けていた一品。

 ウロボロスドラゴンの素材を入手した時点でレシピは全解放されているし、このアイテムを必要とするレシピも他にないので、ぶっちゃけ失っても残念には思うけど痛いというほどでもない。

 貴重なアイテムだったので万が一無くした人の救済のために複数手に入ったのかな?と思ってたりもしたけど、むしろこのためにあったのかも、とすら思うようになってきた。


<< 本当にこのアイテムでよろしいですか? >>


「YES、っと」


 中断されていたメイキングが再開され、少し光が強くなった。

 温かいような、冷たいような、今までにない不思議な感触、と思ってしまったのは多分、わたしの精神が高揚していたからだろう。

 特別なアイテムだからか、いつもは一瞬で消える光がたっぷり十秒くらい経ってから静かに消えた。

 そして、わたしの手のひらに残されていたのは。




●ウロボロスリング

 原初の竜ウロボロスドラゴンの力と■が宿るアクセサリ。

 其は終わりにして始まりだったもの。破壊にして創造だったもの。

 欠けたものが取り戻されし時、新たなる■■となる。

 【不壊属性】




 アイテムと共に表示されたフレーバーテキストに「ん?」と一瞬違和を感じたのだが、続いて表示されたシステムメッセージにより見事に頭から吹っ飛んだ。




<< 全てのアイテムが作成されました。 >>


<< 称号【全てを作りし者メイキングマスター】が贈られます。 >>




「いや…………ったああああああああっ!!」


 全てのアイテムを作ること。


 わたしは恋焦がれていると言ってもよいくらいにそれを強く望んでいた。

 システムから称号が得られた、つまりそれは確実に成されたという証。

 その事実に思い至ったわたしの体は歓喜に満ち溢れ、衝動のままにグっと拳を握り天へと突き上げた。






<< 創造神より神託が届いています。 >>

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