『おにぎり、温めますか』という、普段なら聞き流す一言を、震災後の食卓の現実に結びつけてみせる1話。流通が止まり、店の棚が空になり、開店は1日1〜2時間。並んで買えるのはお茶1本という日が続く。パンが消え、結局は米に寄っていく。海苔もふりかけもないから、塩おにぎりをラップで包んで持って出る。その冷たさの描写が淡々としていて、逆に状況の硬さが伝わる。
京都出身の予備校講師の友人が、酒席で『受験期の男女交際』を講釈し、極端な例を積み上げては最後に『俺の話や』と落とす場面が泣かせる。笑いが起きるのに、ただの冗談で終わらない。生徒や保護者の前で『恋は魔物』と言い切る人間味が、のちの『温めたい』に手触りを与える。
後日、同級生からのメールで彼の最期が簡潔に知らされる。ここで作品は泣かせに寄らず、日常のレジ前に話を戻す。コンビニの一言が、記憶のスイッチになる。温めたいのは米だけではない、という含みが残るが、説教にも感傷にもならない。読み終えると、次にレジでその一言を聞いたとき、指先だけ少し温かくなる。