「身体が重い」「冷たい」「首筋に噛みつきたくなった」
……もし、そんな「通常とは違う症状」を自覚してしまったら、あなたはどうしますか?
本作『ゾンビは温めないでください』は、そんな末期的な症状を訴える患者と、どこまでも冷静な医師が対峙する、ある診察室の物語です。
この物語の面白さは、ホラー映画なら悲鳴を上げて逃げ出すような異常事態を、医師が「医学的な言葉」によって淡々と日常の風景に溶け込ませていく過程にあります。
現代社会のストレス、自律神経の乱れ、そして突発的な恋心……。医師から提示される「論理的な解釈」の数々は、奇妙なほど説得力に満ちており、読者は次第に「おかしいのは患者の身体なのか、それともこの医者なのか?」という迷宮に迷い込みます。
本作が描くのは、私たちが信じている「正常な日常」という概念が、言葉一つでいかに脆く、いかようにも改ざんできてしまうかという、知的な恐怖です。
医師の冷徹でユーモアさえ感じさせる語り口。それに呼応するように、読者の脳内では「常識」と「非日常」が激しく衝突し、心地よい違和感が膨れ上がっていきます。
『ゾンビは温めないでください』
この一見シュールなタイトルは、物語の核心を指し示す唯一の道標です。なぜ温めてはいけないのか? 医師が守ろうとしているのは、患者の健康なのか、それとも……。
平穏な診察室の空気は、ラストに向けて静かに、しかし決定的に変質していきます。読み終えた後、あなたはきっと、自分の体温を確かめずにはいられないでしょう。
「よくあることです」という医者の言葉を、あなたは最後まで信じられますか?
一級のブラックユーモアと静かな戦慄が同居する、一級の短編ミステリー。
『これはゾンビですか?』ってライトノベルがありましたね。アニメも昔放送されてましたね。この作品とは全然違うストーリーだけど。
でも、本作は「これはゾンビですか」って言いたくなるような内容ではあります。
本作は際河原歩っていう人がある医師の診察を受けるところから物語が始まります。
そういえば、『これはゾンビですか?』の主人公も歩っていう名前だったな……まあそれはいいとして、この歩という男が「自分がゾンビになっちゃった気がする」と言い出すんです。
「なに言ってんだこいつ?」て思いましたが、体温を計ったら二十二度だったとか、暑さも寒さも感じないとか身体が石みたいに重いとか、たしかに話を聞いているとゾンビっぽくはありますね。
しかし、医師の方はそれを信じず、現実的な説明をし続けていきます。なかなか説得力があって、「やっぱりゾンビじゃなかったんや!」と思いましたが……終盤に衝撃的なことが明らかになります。
是非、最後まで読んでください。おすすめです!
これゾンビだよね? ねえ、これゾンビだよね?
すっげーゾンビだよこれ!
やっぱこれゾンビだよね!?
……と、終始ツッコミが止まらない本作。
一種のショートコントを見ているかのようです。
しかし、お医者さんの方は冷静にパニック状態の患者さんを落ち着かせ、一つずつその疑問への対処をしていきます。
しかしこの悪態具合よ。
まぁ、トンチキなことを言い出す患者と相対してしまうと、こうもなるのでしょうか。
ところが、患者のおかしな「自覚症状」は止まるところを知りません。
お医者さんの方も徐々に頭を悩ませていきます。
さてこの患者、どうしたものか。
そして、突如としてギアを上げるお医者さん。
そのオチによる真実が明かされた後、あなたはきっともう一度読まされることになるでしょう。
そしてきっと、二度目の二人の会話はまた違った印象に映るはずです。
「よくあることです」
その一言で、すべてが片付くはずでした。
診察室で交わされる“普通”の会話が、いつのまにか世界の歯車をズラしていく物語です。
とある医師と患者の問診から始まる、会話中心の短編。
「ちょっと変わった患者さんの相談話かな?」という気楽な気持ちで読み進められます。患者の訴えはどこか大げさで、医師の返答には説得力があり、「まあ、そういうこともあるのかもしれない」とこちらまで納得させられそうになります。
むしろ、医者を困らせるこういう患者ってアルアルなんだろうな……なんて思ったり。
……さて、この患者は無事に自分の症状を伝えきり、医師の診断を受け取ることができるのでしょうか。
その結末を、ぜひ一緒に見守ってあげてください。
多様化が進みますと、心病気の方も多様化してきますもので、
ヤレ神経ナニナニ疾患でありますとか。ナニナニ炎症でありますとか、
もはや病名を持たない人間なんてこのストレス大国には存在しないのではないでしょうか?
それでお医者さんのとこに、自分がゾンビだと思っちゃった間者さんが現れるんですがー……
あ、今言ったストレス大国の話ですか?
国は言いませんが街のなまなら知ってますよ。ラクーンとかそんな名前です。
行きたいなら八丈島からヘリが出てますけどオススメしないですねえ。
ヘリは。
いやあ……この先生が不条理を書くとこうなるのか 笑
不条理ですけどギリギリ理屈を保って抵抗するコメディ。
おすすめです。
ご一読を。
このシチュエーション・コメディな展開がとにかく楽しい作品でした。
とある医療機関の中で、「相談」を受けることになった主人公。
どうやら患者は「自分がゾンビになった」と思い込んでいるようで。
ゾンビならではの自覚症状。それを一つ一つ訴えていく感覚がとても面白い。
「熱が下がった」、「動きが遅くなる」、と。たしかにゾンビの特徴としてありそう。でも、まだまだグレーゾーンの可能性もある。
そんな「医者としての常識」から、「妄想」なのかどうかということを指摘していく。
この辺りは「コタール症候群」という「自分は存在しない。自分の体は腐敗している」なんて思い込む症状もあるそうだし、精神科医の中にはリアルにこういう相談を受けている人もいるかもしれません。
そういう「コメディのようで、実は結構リアルかもしれないシチュエーション」が描かれることになるのですが……。
果たして、この二人のやり取りの裏には「どんな真実」が眠っているのか。「あ、そっちなの?」と思わされるラスト、意外性に満ちていてとても楽しかったです。